夏休みは過ちと言うなかれ 〜一緒に昼食を〜

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夏休みは過ちと言うなかれ 〜一緒に昼食を〜

「ここまでで、休憩かな」 時計で時間を確認すると正午を15分ほど過ぎている。 ひとまず数学の課題を半分ほど解いたのを端に寄せると鞄からお弁当とお茶を取り出し手を合わせる。 「いただきます」 声にだし、箸を付けるとなんとも慌ただしい音が響いてくる。 「一緒に食べましょう!!」 引き戸が開くと同時に声が聞こえ、頬を真っ赤に染め大粒の汗を額に蓄えた黒瀬が現れた。 驚きのあまり箸で掴んでいた卵焼きを落としてしまう。 ご飯の上で柔らかく跳ねた卵焼きは、側に置いていたお弁当包みの方へ転がる。 「「あっ」」 2人の声が重なり卵焼きの行方を見守った。 「すみません。急に声かけてしまって」 少しし、返答する。 「別に大丈夫。…………っっつ!?」 卵焼きぐらい。顔を上げ、そう続く言葉は呑み込まれ発せられる事はなかった。 代わりに出たのは何とも表現し難い朱音の声だった。 窓辺に来て、風を浴びながらネクタイを緩める姿が何故か朱音を焦らせた。 (???!) 長距離を走ったように脈打つのを感じ、戸惑った朱音は箸を置いて慌てて自身の手首を確認し、深呼吸する。指先から感じるのは、速い血液の流れが次第に緩やかになってくる脈拍だった。 (……戻った。何だったのだろ) 不思議に思いながら、朱音の返答も待たずに目の前。でなく斜め前に座りビニール袋からパンを出し食べる黒瀬を見てから、お弁当に目を向けた。 何も喋る事はなく、ただ2人の間をセミと運動部や吹奏楽部の音が聴こえるのみだった。 ………… 走っている最中、何と声をかけようか考えてしまう。 靴を履き替え渡り廊下を越え、特別棟の4階の端にある図書室を目指し階段を駆け上がる。 (さすがにキツい!) 額から汗が滴り落ちるのが分かったが、拭うのも煩わしく勢いよく戸を引いた。 口をついて出たのは、シンプルな言葉だった。 「「あっ」」 転がり落ちた卵焼きにも驚かせてしまった事にも申し訳なさが先立ち謝る。 暑さを凌ぐ為、窓に近寄りネクタイと第2ボタンを緩めると微かに風が地肌にあたり気持ちいい。 朱音の形容し難く発した声は聞こえず、軽く汗が引いた所で同じテーブルに。 (ほんとは目の前にいきたいけど) 先程、怖がらせてしまった事もあり斜め前の席に座る。 (パーソナルスペースだっけ?それは守ろう) いつか授業で聞いた内容を思い出した。 言葉も交わさずに同じ空間で昼食を摂る事の緊張と風下に居ると朱音の髪から香ってくるシャンプーの匂いに早く脈打つ。 (暑い。煩い。耳の中にも心臓があるみたいだ) 外からの喧騒にも負けないくらいに一際大きく鼓動が聞こえたかと思うと急に視界が暗くなり、鈍い痛みが頭を襲った。
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