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夏休みは過ちと言うなかれ 〜初めての事〜
ガタンッ!ドンッッ
と、椅子が倒れる音と何かがぶつかる音が聞こえたかと思うと斜め前に座っていた黒瀬が消えていた。
否、消えたというよりも崩れ落ちたのだ。
「えっ!?」
何があったか状況はわからないが、席をたち反対側へ回り込むと床に倒れる黒瀬を見つけた。
急いで黒瀬の脈を確認するとこれでもかというほど速く、脂汗も酷かった。
「熱中症?!」
今日はひときわ暑い。
そんな中、水分も摂らずに走り回ってしまったから余計と体の放熱ができてなかったんだと朱音は考えこむ。
(えっと……確か、服を緩めて冷たいものを……。ごめんなさいっ)
うろ覚えな記憶を頼りに、ネクタイを外し既に開けられている第2ボタンを越え、第3までボタンを外す。
程よく濡れたハンカチを額に乗せ、傷まないようにと弁当包みに入れてくれていた保冷剤をティッシュに包み脇の下へ挟ませてもらう。
(あとは、涼しかったらいいんだけど)
生憎、クーラーや扇風機などはない古い作りのために
生ぬるい風のみ入ってくるだけ。
数学の課題に挟んでいた下敷きを取り出すと首元を目がけ扇ぎみる。
少し頭が下がってるために、キツそうに見えた。
枕になるようなものをと考え、辺りを見回すも本人のリュックはカラビナのような装飾品が付いており頭に敷くと痛そうだ。
(本は……絶対痛いよね)
下敷きを扇ぎながら、脳裏に幼い頃に母がしてくれていた事を思い出した。
(あれなら痛くないかな)
その場に座り、スカートを整えると少し黒瀬の頭を持ち上げその下に自身の足を滑り込ませる。
太ももの位置に調整し、しばらく扇いでみる。
少し顔色も戻り、汗も引いてきたようだ。
額に乗せていたハンカチを取り、たたみ直して首元の汗を軽く拭くとピクリと黒瀬の瞼が動いた。
…………
大きな鼓動が落ち着いてくると、夏の風とは違うそれと頭にある柔らかな感覚に鼻腔をくすぐる甘い匂いを感じ取れてきた。
うっすらと目をあけると水色の板のようなものが上下にゆるゆると動いており、どうやらさっきから感じていた風はこれから発せられているようだった。
目だけを動かすとすぐ横に白と濃い深緑のコントラストが映る。
(どこかで見た色合いだな…制服に似ている)
「!??っっ!!」
反射的に飛び起きると、頭痛と軽く目眩がし、俯いて目元を抑えた。
首から薄いピンクのハンカチが落ち、自分の胸元がネクタイもなく外した覚えのない第3ボタン部分まで開いている事に気づく。と同時に後ろへ引き戻され、またあの柔らかな感覚が後頭部から感じた。
「……まだ、休んでないとダメですよ」
少し震えたようなか細い声が頭上から聞こえてきた。
不快ではない温かい温もりが目元を覆い、再び暗闇に視界が包まれた。
だんだんと状況が理解できてきた黒瀬は、目元を覆われたまま声を朱音にかけた。
「何があったんですか?」
耳に届いたのは自分の酷く掠れた声だった。
「少しだけ起きて、これを飲んでください」
そう言われ、視界がひらけると水滴を少し蓄えたペットボトルを手渡される。
「……ありがとうございます」
お礼を伝え、キャップを回すと硬いはずのキャップがいとも容易く回った。
数口飲み、容器をみると自分が飲んだ以上に減っていた。
(これは、もしかしなくとも……)
ズキンっと脈打つ頭痛もあり、深くは考えずまた倒れさせてもらった。
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