夏休みは過ちと言うなかれ 〜理性は保たれない〜

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夏といえど、天気が悪く、()が入らない日の図書室は湿気の中に肌寒さを少しだけ感じる。 隣に座る黒瀬は何事もなく友人の事や面白かった話しをしてくれているが、肌寒さが気になり相槌を打つも半分も頭に入らない。 分からないように、自身の腕を摩った。 「先輩、あと何日かで夏休み終わってしまうんですけどこれからも会いません?」 「(勉強かな)そうね」 「……連絡できるよう、ID交換しましょう」 スマホを操作しながら提案され、お互いにメッセージIDの交換をする。 -黒瀬 奏汰- そう追加されたメッセージアプリの画面を見ていると ポンっと通知音とともに黒瀬の名前の横に数字が表示され、タップする。 『お願いします。黒瀬です』 (隣にいるのに) そう思いながらも、父親以外の初めての男の子の登録が黒瀬で良かったと感じた。 画面を操作し、返信すると黒瀬のスマホが短く震えた。 「課題終わった?」 「教えてくれたお陰で全部終わりました。先輩はすぐ終わってたんじゃないですか?」 「英語がまだ。…………というより、英語の課題を無くしちゃって」 怒られるのを覚悟で始業式の日に、英語教師に謝ろうと思っている事を話す。 黒瀬の表情が少し曇ったように見えたのは気のせいだろうか。 思わずくしゃみが出る。 「先輩。こっちに座って」 強引な声音に驚き黒瀬を見ると、自身の足をポンっと叩いている。 「大丈夫だよ」 さすがに足の上に座るのは…と断る。 ………… (少し肌寒いな) そう思いながらも暗くならないよう明るい話題を喋るが、当の朱音は何かに気を取られているらしく変なタイミングで相槌が入ってくる。 時間の確認がてらスマホを取り出すとあと数日で夏休みが終わる。 学校以外でも会いたいと考え、メッセージアプリを開く。 提案すると自分が思っている事とは別の考えで了解してくれたであろう朱音の言葉を聞き、 メッセージIDの交換を済ますと直ぐに、入力し送る。 数秒してからスマホが震えた。 -湯浅 朱音 ①- と表示された画面をタッチすると、可愛らしいうさぎのスタンプが送られてきていた。 課題の話題が出された瞬間ドキリとした。 返答し、自分が一番分かっているのにも関わらず課題が終わったか質問した。 無くした事になっており、怒られるのを覚悟していると言われた。 小さく聞こえたくしゃみの音に朱音をみると、肌寒いのだろうか腕を摩っていた。 (様子がおかしい事になんで気づかなかったんだ) 自責しながら、座り直し胡座をかく。 「先輩。こっちに座って」 よくよく考えれば断られて当たり前だ。 胡座を解き、前にきてもらえるよう声をかけた。 首を傾げながらも従う朱音の手を引っ張り、腕の中に収めた。その瞬間、感情で動いていることに気付く。 (理性なんてないに等しい) 困惑した声を出す朱音。 必死に体を離そうと、もがくのをより強く抱き締める。 艶やかな黒髪から覗く首筋に顔を寄せ、まだ言うばずのなかった思いを吐露した。
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