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…………
同じ問いかけを目の前に居る男の子へ伝えた。
そもそも、男の子の名前さえ知らない。
震える手を悟られないように、スカートを握り込む。
「追いかけてしまってすみません」
そう言われ、顔を見つめると座っている間も距離をとり、柔和な笑みを浮かべる男の子がいた。
何故、私はこの男の子の事を怖いと感じたのだろうか。とても穏やかでよくよく見れば幼い顔立ちだが歳を重ねればきっと、精悍な青年になるだろし、
美少年といわれれば、そちらの部類に入るはず。
そう認識すると急に気恥しくなり真っ直ぐに見れなくなった。
真っ白なワイシャツと少し緩めた深緑のネクタイに目を逸らす。
…………
謝ったのがいけなかったのだろうか。
目を合わせてくれたと内心喜んだ事がいけなかったのか。
突然、目線が合わなくなった朱音に不安を抱いた。
「どうかしましたか?」
「……名前を」
「すみません。俺は黒瀬 奏汰と言います。1年です。って上履きの色見たら分かりますよね」
「……黒瀬君は、どうして……」
追いかけたと続くと感じ、被せるように話をした。
「いや、誤解を解きたくて。それと、拾い物をこの前したので返そうかと」
「拾い物?」
皆目検討もつかないという表情で見つめてくる朱音に、黒瀬は焦りながら席をたった。
「待っててください。俺、取ってきます」
返答を待たず歩き出す。
テーブルの上に置いた英語ワークが風にはためく。
「拾い物って。苦しい言い訳だな………これ、返さなかったらまた喋れるかな」
なんと幼稚な考えだろうか。
英語ワークを手に取り、階段へ向かった。
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