夏休みは過ちと言うなかれ

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………… 天を仰ぐと木漏れ日から溢れた強い日差しが、制服の白と深緑のコントラストを一層際立たせる。 「暑い……」 (拾い物ってなんだろう) 1人考えあぐねていると声をかけられた。 振り返ると、バツの悪そうな表情をした黒瀬が居た。 ………… 「どうかしました?」 「先輩、すみません。……俺、忘れてきました。また会った時で良いですか?」 そう言いぎこちない笑みを零す黒瀬を見つめる。 手には何もない。 「大丈夫ですよ」 何も疑わずに返答した朱音を直視できずに振り返り、 背を向けたまま伝える。 「戻りましょう。暑いですし」 「そうですね」 追いかけられた時とは違い、2人一緒に階段を上る。 お互いに荷物を置いてるテーブルに戻り、朱音は課題を。黒瀬は、時間凌ぎで持ってきた小説の続きに取り掛かった。 12時のチャイムが鳴る。 「先輩は、まだ居るんですか?」 「……そうね。もう少しだけ」 そう答えると黒瀬が席を立ち、図書室を出ていった。 階段を降りる音が聞こえなくなると、朱音はため息をついた。 「男の子は苦手……」 小・中学生の頃から、本を好み友達も少なく口数も少なかった朱音は男子からの格好のいじり相手になり、少しずつエスカレートしてきたのだ。いじめに発展するまで時間はかからなかった。 今、思い出しても嫌になる。 ただ、それでも耐えてこれたのは佳奈が居たからだった。 自分もいじめに合うかもしれないリスクもあるのに佳奈は真っ先に駆けつけてくれていた。 頼ってばかりではダメだと、高校は女子校に行く佳奈とは違う共学の方へ進んだ。 朱音自身も溶け込むように努力し、クラスメイトにも 恵まれ、あの時のようにいじられる事もなく過ごしてはこれた。 しかし、それと男子を克服するというのはまた別だった。 ………… 朱音の返答を聞くと直ぐに、図書室を飛び出し昇降口へ戻った。 (あの様子だと、昼過ぎまで居るのかな) 生憎、昼食を用意していない育ち盛りの黒瀬にとって食事抜きはきついものがある。 バス停近くにコンビニがあり、そこへ昼を買いに行きたいのだ。 校門をくぐるとユニフォーム姿の沢渡が見えた。 「急いでんなー」 呑気に話しかけてくる沢渡に少し苛立ちながら、返事を返す。 「昼買いに行くんだよ。早くしないと帰っちまうだろ?!」 比較的穏やかな性分の黒瀬が語気を強くした事に驚きながらも、沢渡は急いでいる理由に勘づいた。 「何でもいいのか」 足首を回しながら、手を出してくる。 「あ、あぁ」 戸惑いながら、沢渡の意図を汲み急いで財布を手渡す。 「わりぃ、ちょいコンビニ行ってくるわ」 そう野球部の同級生に声を掛けると沢渡は、坂道を走り抜けて行った。 数分後 両手にビニール袋を下げた沢渡が戻り、財布と片方の袋を黒瀬に返す。 「お前が走るより、俺が走った方が早い。駄賃でアイス買ったからサンキュー」 と笑い野球部の方へ戻っていく、頼もしい友人に感謝しながら急いで、図書室に向かう。
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