いつも隣りにいてほしいのは

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マーチングバンドはとっくに終わり、今は地元ののど自慢が特別にあつらえた壇上に上がり、国歌斉唱に備えている。観客の興奮も最高潮だ。そしてアレックスのそれも。 「その訳を話したいから二人の席を取ったんだろうが!!お前の目を見て、直接話したいんだよ。だから来てくれ。お願いだから」 最後の方はもう、興奮はしぼみ、涙声になっていた。 アレックスの様子をじっと観察するように見ていた老婦人が、溜まりかねたように「こっちに寄こしなさい」と手で合図する。 「え?」 たじろぐアレックスの返事を待たずに、婦人がスマートフォンを奪い取る。 「もしもし?」 「はい?」 ライアンは突然聞こえてきた見知らぬ女性の声にびっくりする。 「ちょっと、あんたがどこの誰だか知らないけどね、この子が――あんた、名前は?――アレックスね、オーケー。そのアレックスが、一世一代の決心をして、あんたに大事な話をしようとしてるんだ、さっさと腹くくってこっちに来な!こんな大事な日にいつまでもこうやってやり取りされてたんじゃ集中して見られたもんじゃないよ!分かったかい?!」 「……イエス、マダム」 アレックスはライアンと話そうと婦人に手を差し出したが、婦人は容赦なく通話を切り、アレックスに投げてよこした。 アレックスは茫然としつつも、慌てて両手でスマートフォンを掴む。 「ナイスキャッチ」 老婦人の恋人らしき男性が、アレックスに向かって指を突き立てる。彼女とはおよそ対照的な、地味で紳士的な老人だった。彼はアレックスと恋人ににっこりと笑うと、言った。 「今夜は、勝てそうだ」
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