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国歌斉唱が一番盛り上がるパートに入り、観客が盛り立てる。今夜起きることをこの眼で確かめられることに、球場にいる全員がはちきれんばかりの期待と興奮を抱いていた。アレックスもそのはずだったが、今は、ライアンを求める切ない気持ちで胸が張り裂けそうになっていた。
あんなに切望してやまなかった、地元チームの勝利への希望も、今はすっかり色褪せていた。
小さな頃からずっと見てきた、一緒に育ってきた球団の晴れ舞台。だけどお前がいないと、こんなにどうでもよくなってしまうなんて、な。不思議なもんだな。どんなに負けがこんでも、万年下位チームでも、それでも楽しかったのは――
「間に合った」
ふと後ろを見ると、息を切らしたライアンが目の前に立っていた。
――お前が、隣りにいたからだったんだな。
「……遅かったな。始まるまでの時間が好きだったろ」
「ああ。お前と過ごすのがな。……ごめん」
来る前はあんなに焦ったり、不安に感じたりしていた気持ちが、一目ライアンの姿を見たら、すべて吹っ飛んでしまっていた。全身の力が抜けていく。
「でもよかった。来てくれて」
この日初めて発した一番の、心の底からの、素直な言葉だった。
「ずっと、覚えててくれたんだな。俺たちの約束」
「ああ。もちろんだ。ずっと、忘れなかったし、忘れられなかった」
「俺……せっかくお前がお膳立てしてくれたのに、それを台無しにしそうになっちまって……ごめん。いつも、そうだよな。お前の優しさに甘えてしまう」
アレックスの顔に笑みがこぼれる。
「確かに、お前のその、義理堅くて一本気な性格のせいで、俺のサプライズも半分おじゃんになっちまったし、安月給をつぎこんだチケットが、危うく無駄になるところだったな」
ライアンの眉がハの字に曲がり、まるで叱られた子犬のような眼でアレックスを見つめている。
「だけどやっぱり、俺の隣にはお前がいてほしい。お前じゃなきゃ、だめなんだ」
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