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国歌斉唱が終わると同時に、頭上には花火が打ち上がる。
「お!やっと来たぜあいつ。まったく、どんだけ待たせるんだよ」
外野席にいるピートが、持参した双眼鏡を覗き込み、文句を垂れる。
隣に立つチップが答える。
「どうせあいつのことだから、俺たちに悪いとかなんとか言って、ぐずってたんだろ。で、どんな調子だよ、奴らは」
レンズの真ん中に見える二人は、周りが皆球場の方向を見ている中で、見つめ合っていた。
「うーん、そうだな……ちょっと深刻そうな顔してるけど……」
ピートはそうすることでより詳細に見えるとでもいうように、懸命に目を凝らしている。
そして満足げにニヤリとすると、チップに双眼鏡を手渡した。
チップがいぶかし気に二人のいる方向に焦点を合わせる。
抱き合っている二人の姿が見えた。ライアンが、アレックスの髪の間に手を差し入れ、首筋にキスをしている。
「やっほう」
思わずチップが歓声を上げ、双眼鏡を見たままピートとハイタッチする。
「……なあ」
「ん?」
「なんでか知らないけど、金髪女性……ばあさんか?とにかく知らないおばさんも二人に抱きついてるぞ」
「は?ほんとだ。肉眼でも分かるぜ」
二人は顔を見合わせる。
「まあ、いっか。二人とも幸せそうだ」
「だな」
「……これでライバルが一人いなくなって、お前はラナにアタックできる、と」
ピートがチップに意地悪い笑みを浮かべる。
「おいおい、お前だって、ダナを狙ってるんだろうが。それでアレックスとライアンの恋路を応援したんだろ?」
「何言ってるんだよ、それだけじゃないぞ!まあ、それもあるっちゃあるが……」
「ふん。だろう?じゃあ利害の一致だな。このことはここだけの話ってことで」
「だな。了解」
二人は二人で、秘密の協定を結んだ。
アレックスがピート達のいる方角を指し、ライアンに教えている。
ピートとチップは両手がちぎれんばかりに二人に手を振り、祝福した。二人も仲睦まじく肩を組んで、手を振りながら応える。
「さあ、これで試合に集中できるぜ」
「だな。ギリギリで間に合った!」
「ゴー!ブロンテーズ!!」
こうしておそらく、ようやく球場全体が一つになった。
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