いつも隣りにいてほしいのは

7/8
前へ
/8ページ
次へ
国歌斉唱が終わると同時に、頭上には花火が打ち上がる。 「お!やっと来たぜあいつ。まったく、どんだけ待たせるんだよ」 外野席にいるピートが、持参した双眼鏡を覗き込み、文句を垂れる。 隣に立つチップが答える。 「どうせあいつのことだから、俺たちに悪いとかなんとか言って、ぐずってたんだろ。で、どんな調子だよ、奴らは」 レンズの真ん中に見える二人は、周りが皆球場の方向を見ている中で、見つめ合っていた。 「うーん、そうだな……ちょっと深刻そうな顔してるけど……」 ピートはそうすることでより詳細に見えるとでもいうように、懸命に目を凝らしている。 そして満足げにニヤリとすると、チップに双眼鏡を手渡した。 チップがいぶかし気に二人のいる方向に焦点を合わせる。 抱き合っている二人の姿が見えた。ライアンが、アレックスの髪の間に手を差し入れ、首筋にキスをしている。 「やっほう」 思わずチップが歓声を上げ、双眼鏡を見たままピートとハイタッチする。 「……なあ」 「ん?」 「なんでか知らないけど、金髪女性……ばあさんか?とにかく知らないおばさんも二人に抱きついてるぞ」 「は?ほんとだ。肉眼でも分かるぜ」 二人は顔を見合わせる。 「まあ、いっか。二人とも幸せそうだ」 「だな」 「……これでライバルが一人いなくなって、お前はラナにアタックできる、と」 ピートがチップに意地悪い笑みを浮かべる。 「おいおい、お前だって、ダナを狙ってるんだろうが。それでアレックスとライアンの恋路を応援したんだろ?」 「何言ってるんだよ、それだけじゃないぞ!まあ、それもあるっちゃあるが……」 「ふん。だろう?じゃあ利害の一致だな。このことはここだけの話ってことで」 「だな。了解」 二人は二人で、秘密の協定を結んだ。 アレックスがピート達のいる方角を指し、ライアンに教えている。 ピートとチップは両手がちぎれんばかりに二人に手を振り、祝福した。二人も仲睦まじく肩を組んで、手を振りながら応える。 「さあ、これで試合に集中できるぜ」 「だな。ギリギリで間に合った!」 「ゴー!ブロンテーズ!!」 こうしておそらく、ようやく球場全体が一つになった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加