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「全っ然分かんない」
耳慣れた、いかにもメンドクサイといった気持ちを包み隠そうともしない声が、すぐ側から漏れてきました。
「お嬢様。そのような言葉は、一度よく考えてから、発する言葉でござ……」
「だ~か~ら。考えても分かんないって言ってんの」
メンドクサイが、さらに二乗された言葉が、被せ気味に漏れてきます。
「一体、授業では何を吸収されておられるのでしょうか?なぜ、私は、執事と家庭教師のダブルワークを課せられねばならないのでしょうか?」
「ちょっ……丁寧にディスるの、止めてくれない?」
「ディスってなど、ございません。事実を述べたまでです」
「あぁ~、もうっ、そのしゃべりが余計にイラつく~っ!」
「美女と野獣」に例えるならば、どちらかというと、野獣寄りな荒々しさで、髪を振り乱しながら、お嬢様は叫びました。
「全っ然ダメだわ、気分が乗らないっ。気分転換に、お花見よ、お花見!」
そう言って、お嬢様は、教材を床に投げると、性別でいうところの男性である私には目もくれず、お召しになられていたワンピースを脱ぎ捨て、クローゼットを漁り始めました。
ちなみに、私は反射的に目を背けておりますので、お嬢様のあられもないお姿は全く見ておりません。
「準備は整いましたでしょうか?」
数分経って、私は背を向けたまま、お嬢様にお聞きしました。
「見て良し」
その言葉に、振り返った私に、軽い絶望が襲いかかります。
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