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豪奢な一条邸を出て、お嬢様と私は、近くにある大きな自然公園へとやってまいりました。平日の夕方に差し掛かる時間でしたが、季節柄、多くのお花見の方々で賑わっています。薄紅色の桜が満開に咲き乱れ、深緑の大きな池とのコントラストが大変美しいです。
「やっぱ息抜きは、いいわね!」
息抜きというよりは、現実逃避のような気がいたしますが、それはさておき、お嬢様のお心も、ご満足のようです。
「あ、柿崎。あそこの茶店で、お団子買ってよ」
園内を歩き出して、まだ物の5分と経っていないのに、お嬢様が、そう言い出しました。「花より団子」という言い回しを見事なまでに体現なさる、お嬢様です。
「かしこまりました。人気のお店ですので、まずは団子の在庫確認をして参ります」
その茶店は、昭和時代から続く、この公園では、名物のお店です。食べ歩き雑誌にも、よく載っているため、わざわざ遠方からのお客様も足を運ばれる人気ぶりです。
店外に置かれた、朱い傘の広がる、いくつかの席をぬって、古風な佇まいのお店の中へと入っていきました。
「お忙しいところ、大変申し訳ありません」
声を掛けると、カウンターの奥から、初老の店主が出てまいりました。
「はい、らっしゃい!」
「お団子を頂きたいのですが、まだ残っておりますでしょうか?」
「団子ね。えぇっと……みたらしが、もう売り切れてて、きな粉と、ずんだと、あんこのなら1本ずつあるよ」
もうすぐ、夕飯であることを考えると、団子は1本に留めるのが適量。
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