第69話 命の意味

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第69話 命の意味

「「うわぁぁぁぁ!!」」  聞こえたのは、割れんばかりの大歓声だった。  その歓声に、私は両手を上げた。 「みんな、あのね、大事な話があるんだ」  すると直ぐに静まり、手前の者は腰を屈めていった。  私は、天を見上げる。  月はどんどんと大きく見えて、大地の揺れはさらに大きくなっていた。  残された時間は余り無いのだろう。  そして視線を下ろし、視線を集めながら、一人一人の顔を見ていく。 「みんな、よく聞いてね」  皆が頷く。  私は、息を吸い込み、 「みんな、これから沢山、子供を作ってほしい」  辺りが静まり返った。  何やら首を捻ったり、疑問符が飛び交っている仲間達。  そして、一斉に、 「「「は?」」」  リンネが慌てて、私の額に手を当てながら言った。 「まさか、生き返るのが遅くて、脳に酸素が足りてないのでは?」  私は、リンネに手を両手で持って真顔で告げた。 「違うから……」  リンネの手を放し、私は頭上を指差した。 「女神になったレヴィやカノースとかさ、空の上で産まれるのを待ってる人たちがいてさ」  みんなの視線は、私の指先と共に、天に向けられている。 「彼女らが生まれ出るこの世界をさ、失っちゃいけないんだ」 「魔王様、レヴィに会ったのですね」  ミルが言った。 「レヴィだけじゃない。先に逝った皆がいた。そんな彼女達の思いも預かったから」  私は、自分の胸を押さえた。 「はは……、そうか」  エミが笑った。 「エミ……」  と、私は、エミに向かって歩いた。  エミの体は、乾いた砂が流れる様に崩れ去った。  そして、崩れ去った砂の山の中心で、幼い少女が泣いていた。 「えぐ、えぐ」  私は、少女の傍らで身を屈めた。 「今度は、全部助けるからね」 「パパとママも? 」 「うん、そうだよ」  エミの両親もきっと、生命の循環の中にあるのだから。  私はエミを抱き上げた、そしてレヴィに向かい言った。 「頼めるかな? 愛情を注いであげてほしい」 「勿論だよ」  レヴィに泣きべその少女を渡し、レヴィは早速、笑顔と言う愛情を注いでいた。  セルもレヴィに歩み寄って、エミに笑いかけている。  私は、改めて空を、大きな月を見上げた。 「アッキ様、お供します」  コキアが、手を胸に当てて言った。 「ダメだ――」 「イヤです」  食い気味のコキア。私は困った顔で頬を掻いた。  するとブライが言った。 「戻って来ると約束をしてやってほしい。勿論、私にも」  いい男だ。そう言うとこだぞ、ブライ。    私は、コキアの肩に手を置きそしてゆっくりと告げた。 「必ず戻って来る。嘘じゃない」 「必ずですよ? 戻って来なかったら、アタシ、地の果てまで探しますよ?」 「戻るってば。だから待ってて。それとブライもこっち来て? 二人に頼みがあるんだ」  すると、ブライも、コキアの傍らに立った。 「あのね、二人とも仲良くしてほしい。でね、私の代わりに子孫をさ、子供を作ってくれないかな?」 「え?」 「アッキ、君は何を……」 「また訳の分からない事言ってぇ、とか思ってる? でもね、これは本気。私は、子供は作れないし、二人の事を私は愛してるから。だから、これでいいと思うんだ」 「そ、そんな事、約束できません」  と言うコキアの頭を、私はくしゃくしゃに撫でた。 「という未来も、良いなって思っただけ。ま、私は王様だし? 王配同士なら、ある意味世継ぎじゃん?」  そして泣きそうなコキアの顔を覗き込んでから抱きしめた。 「相変わらず、無茶を言うね」  ブライが微笑みながら言った。 「ふふ、ブライ。昔から、無茶ばっかり言ってゴメン」 「もう、慣れたさ」 「ブライ。世継ぎとか云々抜きでも、コキアを頼むよ」 「分かった。だけど、戻らないと、私も承知はしない。いいね?」 「勿論だよ」  コキアは、無理やり納得しようとしているのだろう。強く唇を噛んでいるのが分かった。  私は、ブライの手を取り、コキアの肩に置いた。  相変わらず可愛いコキアはブライに任せた。  それから、リンネを見た。 「やっと私の番ですか?」  リンネが私の前に立った。 「そうだよ。待たせちゃった?」 「ええ、待ちました。けど、この後、また待たされるのでしょう?」 「ごめん。そうなるね」 「私は……、あっ」  私は、リンネが言の糸を紡ぎ終わる前に、優しく抱きしめた。 「無理して言わないでいいよ。代わりに私が言うから」 「アッキ……?」 「愛してるよ。大好きなリンネ」 「ずるい人だ……」 「分かってる」 「こわかったのです」 「言えない理由でしょ? 其れも分かってた。はは、ごめんよ。勿論、別れの言葉にする気はない。だから待ってて?」  私は、リンネを抱きしめたまま、耳元で紡いだ。 「貴女は、本当にずるい。……もう待つしか無くなってしまった」  私は、リンネを抱く力を強め、そして解放する。  次に、アヤの傍らまで歩み、彼女に微笑んで見せた。 「アッキ……」 「うん、アヤ。それと、レヴィも来て!」 「はいはーい!!」  と、レヴィは幼いエミをセルに抱かせ、駆け寄ってきた。 「アッキ、あのね……」 「あは、みなまで言いなさんな。アヤなりに未来を守ろうとした結果じゃん。悪いと思えば、やり直せばいいさ」 「アッキ、私は本当にいてもいいの?」 「何を言ってんの。居なくなる選択肢なんて無くない? 頭の良い奴は此れだから困るよ、ねぇ、レヴィ」 「同意を求めないでよ!? まるでボクも馬鹿みたいじゃんか!!」 「「「ははははは」」」  いつぶりだろう? 三人の笑いがそろった。  私は二人の肩を抱いて笑い、アヤは、口元を押さえながら微笑み、レヴィはお道化たように笑った。 「待ってるからね!、アッキ」「待ってるわ。アッキ」  親友二人の声が重なった。 「絶対、戻るから」  私は、友情に誓った。  そして、何度も皆の顔を眺め、 「はは、ごめん。みんなにさ、一人一人声をかけて抱きしめたいけど、あまり時間が無いみたい」  私は、また皆を眺めていく。 「でも、最後に、この方には言わせてほしい」  私は、母上の前に立ち、見上げた。  母上の体は、エミの様に砕けつつあって、 「どうした、アッキよ」  言葉が出て来ない私に、優しい声が降りて来た。 「母上……」 「よい。そなたを抱きしめる腕は、まだ健在じゃ」  その瞬間、私は母上に抱きつき、母上は抱きしめてくれた。 「母上……」 「ほれ、さっさと片づけて来るがよい。わしも待っておるぞ? 嘘はつかん」 「はい!!」  漲った。そして元気が膨らんだ。  母上から離れ、月を見上げ、私は上空へと羽ばたいた。  みんなに見守られながら、私は夜の中を羽ばたき月を見上げる。 「アッキは、やっぱりやる気でしょうかね」  リンネが言った。 「あの子、馬鹿だから、きっとやると思うわ」  アヤが言った。 「あはは、大きな石ころとか言って、押し返したり?」  レヴィが言った。 「アッキ様だったら、しますね」  コキアが言った。 「ああ、アッキは難しい事はしないからね」  ブライも言う。  皆が口々に言った。  聞こえてるよ! なんで、分かったのかな?   ……ま、いいや。  私は、思いを力に変える。  昔に、私の背に、黒い翼が生まれたように。  月が大きいのなら、私が大きく成ればいい。 『ゴゴゴゴゴゴゴォォ』  私の体は、天を貫くほど大きく。  大地が遠くなっていく。  私が、文字通り大きく成っていく。  そして、今の私は、月に匹敵する。  そして月に手を着いた。 「熱っ!!!」  月の表面は、大気で擦れ、とんでも無い熱さだった。 「でしょうね」「らしいわ」「アッキだもん」  誰かが笑っている。聞こえてるってば。  熱ければ、熱に耐えうる殻があればいい。  欲動ノ蒼竜鎧(ドラゴニックブルー)!!  月に匹敵した私は、更に青を纏った。  それから 『いけー!! がんばれ!! がんばれ!! 魔王様!! 頑張れ!! アッキ!! アッキ様!!』  やはりちゃんと願いの声が聞こえた。  そして大地の至る所から聞こえて来た。 『魔王様! アッキ! お姉ちゃん!! 頑張って! 信じてるわ! 負けないで!』  そして、もっと上の空からも聞こえた。  クロユキの街から、街の民たちの声や、ノーマ達の声が。 『がんばって!! 負けないで!!』  竜の都から、  街の人々の声が。 『アッキ様!! 信じてるぜ!!』  魔界の各地から、人界の各地からも。 『がんばれ、がんばれ!!』  そして南方の島からは、マダムやその仲間達(ミモザ)の声が聞こえた。 『レヴィ、どうか、あの方を守っておくれ』『魔王様ファイト!!』  月を支える私の姿は、いたる所から見えるのだろう。  全ての声が、全ての願いが聞こえる。 『新たに生まれた神に次ぐ者よ。貴女は思いを力にするのですね……』  うん? これは誰の声だろう。  月と私は、拮抗する。  落下の力を受け止める。その瞬間、翼の片方が折れた。 「くっそぉぉぉぉ!!  二枚でダメなら!!」  巨大な翼が、私の背中から生えた。  翼は六枚、私は地球の空一杯に羽を広げた。  世界を覆い尽くすように、巨大な羽が広がって行く。  私は羽ばたいた。  黒い羽が無数に舞った。  と、その時、私の黒い羽に混じって、小さな白い羽が混じった。  誰の羽だろう……?   考えるのは後だ。 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 「欲動竜撃(ドラゴニックリビドー)!!」  欲動を力に! そして思いを形にして!  何のために生きるのか、何のために生きているのかずっと疑問だった。  でもね、違ったんだ。全然違った。  命は巡り、そして生まれ、そして死ぬ。  綿々と続く命の旅に、果ては無い。  人は、何かのために生きたいと願うかもしれない。何かの為だから頑張れるかもしれない。でも、それは宿命でも天命でも無く、そして決まりはなくて、思いなのだ。願いなのだ。  人には、思いがあるから、生きているから、何かを成せるんだ。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!」  私から、私の全身から、眩い程の光りが溢れていた。  ―――――――  会ったばかりの頃は、8a4b50ec-674f-4a72-9c18-a3050209b988 そして、時と共に、段々と仲良く成って、 0ef09003-885a-4310-b7ac-0767be340bbc 一緒に笑えるようになった。 6af35950-63fc-4980-b505-6a77b56f1380 次回、最終話。
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