不良仮面

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不良仮面

 俺は昔ヒーローに憧れていた。  公園でヒーローのお面を被り本名の九十九正儀(つくもまさき)ではなく、ヒーロー名アキラと名乗り地域の安全を守っていた。守っていたと言っても、空き缶を拾ったり、おじいちゃんの肩を叩いたりと、そんな程度の話だ。そんなある日、公園で野良犬に追いかけられている少女を見つけた。俺は、犬を追い払い少女を助けると、少女はお礼を言うどころか泣きながら逃げてしまったのだ。その様子を見ていた同じ幼稚園の奴らに言われたんだ。「お前のその悪者の顔が怖くて逃げたんだ」と。  ショックだった。  それ以来、俺はヒーローになることを諦めた。  そして高校二年になった俺は──。  ドン、と背中に衝撃を受け、怪訝そうに後ろを見ると上谷彩愛(かみやあやめ)が、口をあわわとさせ潤んだ菫色の瞳でこちらを見ていた。  俺は舌打ちをすると、キッと睨み言う。  「あぶねぇだろ」  彼女は小声で何かを言うと、逃げるようにその場を去って行く。肩の上でゆるゆると踊るように揺れる髪に妙な引っ掛かりを覚え、首を傾げていると、その様子を見ていた奴らが「うわぁ、また女子泣かせてるよ」、「怖い。あの極悪な顔で睨まれたら誰でも逃げるって」「噂だとヤクザとも関わりがあるとか」そんな陰口がぼそぼそ聞こえる。事実俺の身形は、金髪にピアスと、明らかな校則違反の不良と属するそのものだ。そう思われても仕方がない。 *  学校帰り、人通りの少ない路地に入った時だ。三台のバイクに行く手を阻まれると、五人の輩がバット片手に歩いてきた。  俺はまたかと溜め息が溢れる。  「よぉ。俺達は北高のモンだけど、西高の正儀とか言う奴はお前だな」  「だったらなんだよ」  俺がガンを飛ばすと相手のリーダーらしき男が怯む。  男が「お前らやれ」と子分らしき男に言うと、その子分はバットを振りかざし向かって来た。  だが俺は動じない。対格差は明らかだ。元々体格に恵まれていた俺は、親の薦めで格闘技を仕込まれた。  バットを左右に交わすと刹那の如くカウンターのワンツーを相手の顔面に、そして回し蹴りをもう一人の顔面に入れた。相手は白目で地面に倒れ、それを見ていた子分らしき二人はバイクに股がり立ち去ってしまう。残されたリーダーらしき男は悔しそうな表情を浮かべるとバイクに股がり行ってしまった。  「おい!待て!ここで倒れているこいつらどうすんだよ!」  そんなことお構い無しにバイクは走り去り行く。  俺は、仕方なくそいつらを近くの公園まで運ぶとベンチに寝かしてやった。  「これでよし!まあここなら大丈夫だろ」  たく。あんなところに置いてって車に轢かれたら目覚め悪いからな。  そう心の中でぼやきながら俺はトボトボ帰る。  
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