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「もういいです! 好きにしなさい!」  ピシャリと凄みある音を残して、英語を担当している三原先生が教室を出ていった。一時の静寂が入る。けれど、すぐにその緊張は解け、徐々に雑談が広がっていく。もう五分も経てば、授業は終わる。一足早い休み時間という感覚をクラスメートが共有し始める。五分だけやり過ごせばいい。授業を放棄されたクラスに許された真っ当な主張。  けれど、僕は立ち上がって、教室のドアに向かった。  クラスメートの視線が刺さるのを感じながら、先ほど先生が閉めていったドアを開けて、教室を後にする。誰も引きとめはしなかった。  廊下を進み、階段を下りて、職員室へ向かう。スタスタ歩いていったようで、先生の姿は見えない。ギシギシと軋むドアをノックして、職員室へ入ると、三原先生はちょうど放棄した授業から持ち帰った教材をデスクに置いたところだった。 「先生、あと授業少しだけですけど、戻ってきてください」 「他の皆は?」 「待ってますよ。先生のこと。皆、反省してます」 「違うんだよ。君は悪くないよ」 「いや、あの。そうじゃなくて」  三原先生は両手の指を交互に絡ませて、手のひらを天井に向けて、ぐぐっと体を伸ばした。僕は動けずにいる。先生を説得しに来たのは僕が英語の担当係だったからだ。授業に必要な教材を運んだり、配布物を事前に配ったりする。 「あの。なので先生」 「だからさ、君は悪くないってば」  話している途中で残りの授業時間も終わった。埒が明かないまま、職員室を後にして、教室に戻る。廊下を進み、階段を上る。すると、階段を上り切ったところにあるお手洗いから女子生徒が出てきた。ぶつかりそうになった訳ではないが、お手洗いの出入口前を通り過ぎるタイミングで、女子生徒が出てきたので、びっくりして頭を下げられる。 「あっ。ご、ごめんなさい」 「いや、ぶつかってないから。大丈夫」 「は、はい」  女子生徒をやり過ごして、教室に歩いていく。すると、教室から祐樹と景斗が近づいてきた。にたにた笑って、一人職員室に向かったことをからかおうとしている様子だったが、すぐに景斗が気づいて、祐樹の肩を叩き、二人は表情を違う笑みへと変えた。 「あ、愛莉ちゃん。どうしたの? こいつに変なことされなかった?」  祐樹が僕の背後に声をかける。後ろには少し遅れて同じく教室に戻ろうとしている女子生徒がいる。お手洗いから出てきた中本愛莉だ。景斗も無言で視線を中本愛莉に向けた。 「ほらほら。かまうな! 行くぞ?」 「へーい。そういえばミハミハは?」 「ミハミハ? ああ。ミハミハは英語の授業したくないってさ」  祐樹と景斗を促し、後ろにいる中本愛莉を置き去りにする。 「クソッ。俺たちのミハミハが!」 「どうして授業してくんないのかな?」 「お前らがからかうからだろ?」  二人との会話を続けながら、後ろに回した手を振った。置き去りにする間際に合った目が何かを言いたげだったからだ。でも、別にその真意が知りたい訳ではないし、そもそも背後にいる女子生徒に振った手が気づいてもらえたかどうかも分からない。
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