01.現在位置

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01.現在位置

 ここはどこだろう?  もっさりとした重たい意識が、何かしらの抵抗を受けるかのように覚醒しつつあった。けれど、再び睡魔という名の手が伸びて、ずるずると足を引っ張っていく。行き先は心地の良い底なし沼。  僕は、そんなことを何度と無く繰り返していた。電車の中で、うとうとしているのだ。電車が揺れるリズムは、母親の胎内に居た時を想起させるとか。そりゃ、眠たくなるというものだ。  待ち合わせの時間に遅れてはいけない。さりとて、現在位置を正確に把握できていないとなれば、目的地に向かうことすら困難だろう。  ふいに、頭の中で着信音が鳴り響く。イヤホンジャックのように右耳に装着された通信端末を介して、新着メッセージが届いたようだ。 『今、どこにいるの?』  待ち合わせの時間になっても、僕が現れないことに関する問い合わせ。僕が待たせている彼女からだった。  僕はまず、遅れてごめんと一言サイコメッセージを作成し、返信を出した。そして、改めて確認をする。僕が今いるのは……電車の中だ。そして、様子を見る限り、丁度チェン・ウョン・新山止第八駅のホームに停車しているようだ。  僕が乗っているのは、ピンクっぽい赤と薄い茶色が特徴的な、ネオ西武拝島線の最新車両だった。通称赤電と呼ばれているそれは、床が木の板でできているという、極めて最新仕様のハイテックな車両だ。  特に発車アナウンスも無いまま、古のロストテクノロジーである、吊りかけ電車特有の重たい音を立てて、車両がのっそりと動き始めた。  目的の場所は、ここからもう三駅ばかり先。  この電車は、リカク・室町メモリアル・拝島駅行きの準急だ。時間にして、およそ二十五惑星標準分後には、目的地であり、彼女が待っているハシュタ飛翔駅に着けるはずだ。
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