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目的の駅に着いたら改札に出て、右手の甲に透明印刷された生体バーコードをスキャナーにかざすことになる。それにより、出駅申請がなされ、即座に許可が下りることだろう。特にトラブルが無い限りは。
検疫も、犯罪歴なども、特に問題はないだろうから。僕は問題児ではないから大丈夫。
電車が徐行しながら進んでいく。丁度、ポイントの切り替え地点だからか、慎重に進んでいる模様だ。ぎしぎしとよく揺れる。
ポイントを通り越せば、後は広域軌道に変わる。フリーゲージトレイン特有の、グギギギギという、油圧の強力な力によって車輪の間隔が、レールの幅に合わせて自動的に広がっていく音が、聞こえてくることだろう。
軌道が広くなれば、安定した超高速走行が可能になる。一気に加速して、おおよそ200惑星標準キロメートルは出ていくはずだ。
車内の座席は全て埋まっている。僕は立っていた。電磁吊革のパワーサポートを受けながら、ゆったりとしたまどろみの時を迎えていた。
明らかに疲れたサラリーマンや、超絶ブラック部活に勤しんでいるであろう、髪の長い女性徒も、僕と同じように、電磁吊革が持つスタンディングスリープサポート機能を使って、束の間の休息をとっていた。
女性徒の方は、白いスカーフと、上下紺色の古めかしいセーラー服に身を包んでいた。弓道部なのか、長い弓入れを背負っている。雰囲気的に多分、二十四時間耐久アーチェリー道をやっているのだろう。
二十四時間ぶっ続けで矢を放ち続け、その総得点を競うという、極めて過酷な競技だ。集中力を保つのも必要だが、それ以上に強靱な肉体を必要とする。自分に向き合うため。無我の境地に至るための、過酷極まる修行なのだそうな。
大変だなぁと、僕は思った。でも、申し訳ないけれど、結局のところは、他人事だ。僕には関係がない。
『もう少し、待っててね』
僕は、無線サイコメッセージ機能を使い、手足を使うことなく、待たせている彼女にそう伝えた。
『ゆっくりでいいよ。適当に、その辺で買い物でもしてるから。何か、食べたいものでもある?』
彼女は遅れを咎めるわけでもなく、そう答えてくれた。よかった。怒ってはいないみたいだ。
そういうことならば……。僕は一つ、リクエストをしてみた。
『ネオイカ焼き、売ってないかな?』
『わかった。ネオイカね。探してみる』
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