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08.十三回目でようやく初成功
「え?」
今日もまた、いつものところ。ハシュタ飛翔駅の駅前広場にあるベンチに腰掛けながら、僕は彼女に、あるものを見せていた。
――夢の中に、特定の何かを持ち込む事。
そんな事が出来るとは、思っていなかったけれど、上手くいった。
「どういうこと?」
「説明したとおり、だよ」
それは、証書。僕が、つい数ヶ月前に、大学を卒業してしまったという、証明。
「ここは、さとちゃんが見ている夢の中。あまりにも現実そっくりなのが、タチが悪いけど。現実世界の僕は、もう……卒業しちゃったんだ」
そこに何が記載されているか? どのような模様か? 色は? 紙質は?
それら細かい特徴を徹底的に頭にインプットさせて、そのまま手に持っているという前提で、意識の中へとダイヴした。
持ち込めた。結果は成功だ。
簡単に言うようだけど、これまで何度となく試して、その都度失敗してきたのだ。
十二回くらい失敗したかな? 流石にくじけて、この手は使えないかぁと、諦めかけたものだ。執念が成功に導いた。
「さとちゃんは、病院で眠ってる。ずっと、何年もね。お母さんも心配してる。僕は、先進治療を手伝わせてもらっているんだ。研究段階の、手探りな治療なんだけどさ」
「……」
「僕は今、バイトをしてる。フリーターね。……それなら、週に二、三回病院に来ることができるからさ」
彼女は呆然としていた。
この反応は、これまでになかった。
「信じて、くれないかな?」
彼女の頬を、涙が伝って落ちていく。
「ごめん……なさい」
信じて、くれた!
彼女は軽くしゃくり上げながら、僕に抱き着いていた。
「どうして謝るのさ。さとちゃんは何も悪くないし」
「準ちゃんが、ずっと、私を、助けようとしてくれてたのに……。私、信じられなかった」
「そりゃそうさ。僕だって信じられないだろうよ。何言ってんのって、そう思うのが普通だよ」
もう、これ以上、現実世界とのズレを広げたくない。
「私……。元の世界に、戻りたい」
彼女はそう思ってくれた。
「帰ろう。元の世界にね」
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