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「……最後のわがまま、言っていい?」
ねだるように群青を見上げた。群青が、何? と問い掛けるように顔を近づけた。
今、この瞬間を繋ぎ止めたい。すぐ傍に迫る別れが、永遠に来ないように。溢れそうになる涙をぐっと堪えて、私は緩く微笑んだ。
「ずっとずっと、傍にいてね。どこにも行っちゃだめだよ。私が起きた時、一番に会えるように」
「……ええ。約束しますよ」
群青の声が、どんどん遠くなっていった。いつもと変わらない優しい声が、震えるように掠れていった。
「これまでも、これからも。……どこにいても、一緒です」
「よかった……」
ほっと息を吐いたら、心がじんわりと温まった。全身の力がすぅっと抜けて、目蓋が、私の視界から群青を奪った。最後に見えた群青は、泣き笑いみたいな、情けない顔をしていた。
外から聞こえる蝉の声が、子守唄みたいに優しく部屋に反響した。窓の隙間から風が入って、頬をするりと撫でていく。甘えるように体を擦り寄せたら、群青の腕が、ふわりと私を包み込んだ。嬉しくなって抱きついたら、遠慮がちだった腕が、痛いくらい強くなった。睦言より甘い愛情が、ぬくもりとなって広がっていく。言葉にしなくても伝わってくる。家族愛なんかじゃない。これは、確かに恋の温度だ。
明日起きたら、群青に朝ご飯を作ってあげよう。上手に焼けた目玉焼きを、あなたはおいしいと言ってくれるだろう。
薄れていく意識の中で、愛している、と、聞こえた気がした。
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