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心の中で呟くと、あまりの馬鹿馬鹿しさに笑いがこみ上げてきた。愛なんて、名づけるのもおこがましい。あんな綿菓子みたいな行為を、どうしたら愛と呼べるのだろう。形だけの抱擁も、上辺だけの睦言も、遊びにすらならない、ちゃちなままごとだというのに。あんなもの、本当の愛なんかじゃない。たった一つの関係を保つための、弱くて脆い接着剤。私とあの子の、絆の証。だから絶対に、愛なんかじゃない。愛なんてない。あって、たまるか。
鏡台の前に座って、ドライヤーで髪を乾かした。化粧を落とした私は19歳のわりにまだ幼くて、今でも時折高校生に間違えられるほどだ。小学生の頃は、19歳ってもっと大人だと思っていたのに。何も成長していない。心も、体も。
壁に掛かった時計を見る。午前2時半。夜はもうどっぷりと更けて、外からは車の音さえ聞こえない。雨音だけが、途切れることなく耳に響く。
群青はもう、部屋に戻っただろうか。
ふと、もうひとりの住人のことが気になった。ふたりで住むには広すぎるこの家で、ひとりで過ごすには寂しすぎる夜は、彼のぬくもりが恋しくなる。私は枕を腕に抱え、群青の元へ足を進めた。
群青の部屋から、淡い光が漏れている。暗い廊下を照らしている。控え目に扉を叩くと、3秒もしないうちに群青が出てきた。
「どうしました、乙葉」
突然の来訪者にも、群青は驚く素振り一つしなかった。風呂上がりの群青は、コンタクトの代わりに眼鏡を着けていた。ちらりと部屋の中を覗くと、机の上には大量の書類が散らばっている。この生真面目な男は、こんな時間になってもまだ眠りに着く気はないらしい。
「眠れないの」
25センチ上を見上げて、私は甘えた声を出した。
「一緒に寝て」
眼鏡の奥にある瞳が、困ったように細くなった。
「子供のようなことを言いますね」
「まだ19だもん」
「もう大人です」
「何でそんな寂しいこと言うの」
「私が、大人だからですよ」
「……群青は、ずるい」
「大人はね、ずるいんです」
そう言って、群青は寂しそうに微笑んだ。そんな顔をするくらいなら、最初から言わなければいいのに。ねぇ、どうして私よりも傷ついたような顔をするの。言いかけた言葉を飲み込んで、私はむっと口を曲げた。
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