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俺の恋人はそっけない/智の呟き
「ねぇ、蓮二さん……」
「何だよ、寝るんじゃないのか?」
部屋にこもってずっと出てこなかった恋人が水分補給にキッチンにやってきたから、ここぞとばかりに俺は後ろから抱きつき甘えてみせる。蓮二さんは俺より少し背が高いから、抱きつくと細くて綺麗な頸にちょうどいい感じに唇が触れる。少し汗ばんだそこに俺はチュッと軽く口付けた。
もうね、この人真面目すぎて仕事を家に持ち込むんだよね。せっかく一緒に住んでるのにさ、俺たち何日会ってないと思う? 三日だよ? 三日! 同じ屋根の下にいるのに、しかもちゃんとお互い毎日この家に帰ってきてるのに、会わないってどういうこと? 異常事態だと思わない? 朝の出勤前に蓮二さんの部屋にこっそり忍び込んで寝顔を拝むことしかできないなんて寂しすぎる。
でも、そうは言ってもこんなことしょっ中だからもう慣れっこだった。
「寝る前に……ね?」
「ね? じゃねえよ、何時だと思ってるんだ。あ! そこ触るな」
やっと部屋から出てきたと思ったのに、つれないこの態度は何なの? 可愛い恋人に触れたいって思うのは通常運転だ。ムラムラした気持ちを隠すことなく俺はその細い腰に腕をまわす。
蓮二さんは鬱陶しそうにため息を吐き俺の方に向き直ると、コップに注いだ水を一気に飲んだ。
「……したい」
「しねえよ。まだ仕事残ってんだよ。早く寝ろ」
「んん、やだ」
「……やめろ」
「あっ! 待って、それ痛えって」
やめろなんて言いながらも、俺が抱きついて体を弄っても強く抵抗はしない。満更でもないのかな? と調子に乗ってスウェットの中に手を忍ばせたら思いっきり手の甲を摘み上げられた。こういう時の蓮二さん、容赦なくて本当ヤダ。
「もうちょっとしたら智の部屋に行くから……ちょっと待ってろ」
蓮二さんはため息がてら素っ気無くそう言うと、俺の顔も見ずにまた部屋へ入ってしまった。
「え? うん、わかった! 待ってる」
これだっていつものパターンだ。なんだかんだ言ったって蓮二さんはちゃんと俺のことを「愛してくれる」から、本当大好き。
俺より二つ歳上の蓮二さんは少しクールでかっこいい。
俺と違って頭も良くて、いつも難しいことを考えてるみたい。俺が蓮二さんのことが好き過ぎるから鬱陶しく思うかもしれないけど、俺だって嫌われたくないからもう必死なのよ。でも好きな人に喜んでもらいたい、笑った顔が見たい、好かれたいって思う。それが普通だろ?
蓮二さんってばあまり笑わないんだよね。だからたまに笑顔なんか見せられちゃったら、俺もうそれだけで飯三杯いけちゃう。その日一日ずっと俺も笑っていられる。
俺は単純だ──
蓮二さんと一緒にいられるだけで、世界一幸せだって本気で思うよ。
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