夕方のコール

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「詩子さん?」  覗き込んでくる島貫の表情に、我に返り 「詩人みたいなこと言うね」とごまかすように言って続ける。 「島貫は最近、仕事どう? 変わらず?」 「楽しくやってます。最近、取材が増えて記事も書かせてもらえるようになりました」  島貫は音楽関係の雑誌メディアで働いている。大学を卒業後はすぐに就職せず、海外を数年間放浪し、やっと半年前日本に戻ってきたところで就職したという。 「色々巡り巡って、音楽関係にきたんで、自分が歌ってたときのこと思い出して、なんか気持ちとか揺らぐのかなって最初は思ったんですけど意外とそんなことなくて。もう自分は歌わないけど、単純に音楽で救われる人を増やせれば嬉しいなって思うんです」  島貫が、だし巻き卵とアジフライを追加注文し、私はレモンサワーを頼む。カウンターの向こう、少し離れたところから「ごめん、アジフライ終わっちゃってたわ。他のでもいい?」  大将が訊いてくるが、島貫は気が付かないまま、ビールを飲んでいる。  私は代わりに「じゃあ、ゲソの唐揚げあります?」と尋ねる。 「あいよ」という大将の返事と同時に島貫は顔をあげると、 「すんません」  と私に言って、ふっと表情を緩めたかと思うと少し寂しそうに笑った。
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