夕方のコール

11/14
前へ
/14ページ
次へ
 三年間のイタリア赴任が決まったのはその翌週の木曜だった。  赴任は三ヶ月後だが、その前に来月の初旬、二週間ほど出張が入るのでその準備もしておくように、と部長に言われた。  赴任という言葉に私はワクワクしていた。ずっと出していた希望が叶ったのだ。  夜、お風呂に入ったあと会社から送られてきた行程表と一緒に、イタリアとの時差や現地の様子を調べた。九時をまわり、いつもより少しだけ早く穂積君が帰ってきた。  イタリアの赴任が決まった――。  そう告げるとソファのL字部分に座りビール缶のプルタブを引こうとした穂積君の表情が変わる。喜ばれるとは思っていなかった。だから、言うなれば予想通りの反応かもしれなかった。  それでも、ちょっとは期待していた。 「よかったな」と言ってくれること。 「何年?」 「三年間」 「……結婚は? どうするの」 「籍を入れてから向こうに単身で行くか、帰国してから籍を入れるか、相談させて欲し……」 「子供は?」  まるで何かの面接を受けている気分だった。 「え?」 「子供はどうする。俺、言ったよね。すぐ欲しいって」   黙り込む私に彼は堰を切ったように話し出す。 「イタリア行ってどうするの? その後は? 詩子はさ、どっちつかずなんだよ」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加