夕方のコール

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「どっち、つかず?」 「仕事頑張ってるのはわかるよ。でもこう言っちゃなんだけど、給料もそんなにいいわけじゃないし」 「……」  どっちつかず――なんで、どちらか一方を選ばなければいけないのだろうか。  私はこの先もずっと、穂積君の望む方を、穂積君の望むタイミングで選択して、私の欲しかった、何かを捨てていくのだろうか。  ――未来のことなんか誰にもわからない。そればかりに気持ちを割いて、今の自分を捨てないで。捨てないで。  身勝手なのかもしれない。将来のこととか、計画を綿密に組み立てることから目を背けることも――。  でもそれは、完璧に描かれた穂積君の予想図から踏み外さぬよう、最後まで選択していく勇気が結局の所ないからだ。選択した先に、曖昧かもしれないけれど確かに今この瞬間に嘘のない、私自身の人生が続くことはないとわかっているから――。  ベッドで背を向けて浅い眠りについた夜を越え、翌朝、同じような議論を繰り返した。何度話してもすれ違う二人の間にはもう、途方も無い隔たりがあった。 「距離を置きたい」  その言葉は別れを意味するのだと二人共わかっていた。私は必要な荷物をまとめて実家へと戻った。  けれど、物理的に別れるにしても、「別れ」という言葉が本当の意味で適切かどうかはわからない。  正確に言うと私という存在が穂積君の未来年表から消えただけのような気もした。
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