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計画表なんてものはなく、私の頭の中には書いてあったとしても大項目レベルくらい。でも、今この瞬間に嘘がなければ、私は私自身をずっと続けていける――多分。
「今を生きる」とか「今を捨てずに」とか、穂積君が聞いたら現実逃避だと言われるかもしれない。けれど、私が息をしている、この「今」は細かい未来年表よりもずっと目の前にある現実で、その「今」に真正面から向き合うことだって容易いことではない。ただ、曖昧で不確かに見える選択肢でも決して捨てずにいたいだけだ。
それは「大人」になりきれていない私のわがままなのかもしれない。
でも、何かを捨てなくても、描ける未来もある。私はそう、信じたい。
電話を切ってから「本当に来るのかな」と内心思いながら歩いていると、手元でポロロンと通知音が鳴る。
「詩子さん、ここ行きたいっす」
ミラノ内のカフェレストランのリンクが送られてきた。まるで西新宿とか渋谷とか、そのあたりにいる気軽さで。
私は思わず笑ってしまう。
右手側のカフェは賑わっている。
目が合ったのは、青い瞳に柔らかな茶色の長い髪を揺らすご婦人。彼女が私に向かって微笑むと、カプチーノの香りが店の外まで幸せを運んでくる。
私はニッコリと微笑み返した。
《了》
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