夕方のコール

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「おお、詩子(うたこ)さん。ここです」  島貫はベージュのキャップを被ったいつもの格好。煙たい店内でメニュー表を覗き込んでいた。 「お疲れです。一杯目どうします?」 「じゃあ、生で」 「おっけーです。あとナムルとかにんにくとか、適当に頼んじゃっていいですか。肉は盛り合わせで」 「うん、任せる」  すいませ~ん、と間延びした声で島貫は店員を呼び止めて次々と注文をする。これから焼肉を食べるというのに真っ白なTシャツを着ているので、店員が去ってから、 「タレ飛ぶよ」と言うと 「詩子さん。紙エプロンっていうのがあるんですよ」  まるでマジシャンのように得意げな顔をして席の引き出しから四角くぺたんこに折りたたまれたそれを取り出す。私が「あ、そっか」と同じようにも自分の分を取り出すと、 「詩子さん、そういうとこありますよね」 「そういうとこって?」 「いや、なんでもないです」  島貫は一人楽しそうに笑う。私は首を傾げながら運ばれてきた重めのジョッキを持ち上げ、ぎこちなく乾杯する。 
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