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島貫は二つ歳下の大学の後輩だ。在学中は正直そこまで親しかったというわけではない。けれど、島貫が仲間と組んでいたバンドが好きでライブには欠かさず行っていた。島貫はボーカルだった。
今思い返すとなぜそんなに熱心にライブに行っていたのかわからない。でも当時、確かに島貫のその低く柔らかな声に私の心は救われていた。
「島貫、住んでるのどこだっけ。西新宿近かった?」
「今日は仕事で取材があって、中野坂上の方まで来てたんです。たまたま近かったんすよ」
今どこにいますか――。
島貫から度々連絡が来るようになったのは半年ほど前から。飲みに行きませんか、と誘われるので「いいよ」と二つ返事で、何をするわけでもなく、ただ一緒にごはんを食べたり、だらだらと飲んだりしている。
私は営業職なので、取引先によって都内の色んな場所にいるのだが、どこにいても島貫はいつも近くのお店をサッと探してきてフラッと現れる。
「まあ、都内だったら大体ピューッと電車乗れば行けちゃいますから」
「じゃあどこいますかって聞くんじゃなくて、どこどこで飲みましょう、でもいいのに」
ナムルを箸でつまみながら笑うと
「いやいや。聞きますよ。もしかしたら、地球の反対側にいるかもしれないじゃないですか」
島貫が大真面目に返してくるので、私は、残りのビールを流し込みながらグラスに向かって吐くようにまた笑った。
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