夕方のコール

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「ただいま」  真っ暗な玄関の電気をつける。まだ穂積(ほづみ)君は帰ってきていない。  最近穂積君の残業が多く、平日顔を合わせるのは狭い洗面台で朝交互に鏡を使うときの十五分と、寝る寸前の三十分くらいだ。  お風呂に入ってベッドに潜り込み、読みかけの小説を読もうとしたところでガチャリと玄関の鍵が開く音がする。 「おかえり」  声をかけると 「ただいま」  穂積君は疲れ切った表情の中に笑顔を見せ、ワイシャツのままベッドに潜り込んでくる。  穂積君と同棲を始めたのは一年前。  前の会社をやめ、今の会社に転職する前、丸々一週間ほど休みがあった。平日だったので友達とは休みが合わず、ずっと行きたかったイタリア旅行を一人企画した。  ところが、台風で予定していた便が欠航。予約合戦となり、次乗れそうな便が飛ぶのは二日後の午後ということだった。このままスケジュール通りにイタリアに行ったとして、戻ってくる頃には新しい仕事が始まってしまう。  途方にくれて空港で一人意気消沈していたときに出会ったのが穂積君だった。予約が取れない者同士で世間話をしているうちに、同い年で同じ大学、しかも共通の友達がいることが判明し意気投合。  そして付き合って一年が経った昨年、二十七を迎えた私の誕生日に同棲を始めた。
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