夕方のコール

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 昔から、強く子供がほしいと望んだことも、子供はいらないのだとはっきりと思ったこともない。わからない、というのが答えだと思う。  はっきりと決めることが怖かった、とも言えるかもしれない。もちろん結婚を考えると、きちんと話し合わなければいけない。  けれど、今の私に即答することは出来なかった。  母は私を産んだあと病気でそのあと子供を持つことはできなくなった。 「本当は弟か妹を作ってあげたかったんだけどね」  一度だけ、そんなことを言われた気がするが、母は私の前で深刻そうな顔は決して見せなかったし、近所に遊んでくれる同世代の友達はたくさんいて、私は一人っ子として育ったことになんの寂しさも感じていなかった。  けれど、もし私を産む前に母がその病気にかかっていたら、子供を持つことはなかったのかもしれない――そう、幼いながらに考えることがあった。  そのためか、理由はどんなものであれ、子供がいない、という家族のあり方は、私の進み得る人生の一つとしてごく自然にあった。  だからずっとどこか怖かった。  別に子供の話だけではない。色んなことに対して、穂積君の言葉の中に、人生のあり方や他の誰かの選択肢の一つを当たり前に否定するような考えが垣間見えることが――。  それはあり得るかもしれない私の未来を一つずつ否定されているような感覚を受けた。  穂積君に悪気がないことはわかっている。それは彼の合理的思考の中の最良の判断や意見であるに過ぎなかった。  いい意味でも悪い意味でも、彼の口ぶりに意地の悪い感情がにじみ出ることはない。
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