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「そんなことないよ。もちろんイタリアンも好きだし、それは仕事だけど、島貫と話すの楽しいし、場所はどこでも。それに美味しいものがあれば」
きゅうりの漬物をつまみながら答えていると
「詩子さんってそういうとこありますよね」
またこの間と同じようなことを言われる。
「それ、何? この間も」
早速ももだの、砂肝の串が運ばれてくる。
「しっかりしてそうなのに、案外抜けてて、わりと庶民的なとこ。あと、自覚ないとこ。クールそうに見えて意外と優柔不断で曖昧なところ」
「庶民以外の何者でもないよ。てか、私のだめなとこばっかじゃん、それ。曖昧で優柔不断だから決断できないことばっか」
笑いながら、やっときた煮込みに箸を伸ばす。透明のスープの中心で鮮やかに発色した人参が柔らかくて甘い。
「だめなとこじゃないですよ。詩子さん見てると、人間らしいなって思います」
「え?」
「もしも、ノートに項目を並べてイエス・ノーで全部答えて人生決断できるんだったら、誰も悩まないし、そのかわり、小説も音楽も映画も生まれなかったと思いますよ。『曖昧』にあふれてるから人生なんです」
島貫の言葉にハッとする。
人間らしい――曖昧だの、優柔不断だの、穂積君にダメ出しされていたところばかりを「人間らしい」って言ってくれたのがなんだか新鮮だった。
島貫には、穂積君のことを話したことはない。ただ、同棲している相手がいることは半年前、再会したときになんとなく近況報告の流れで伝えた。
だから、例えば穂積君とうまくいっていないことを愚痴って、島貫がそれに気遣って言葉をかけるわけでもない。ただ、島貫の口から自然とこぼれてくる言葉が私をどこか安心させ、それはいつしか温かい心地よさに変わる。
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