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六
「一休殿。そこまで用意をしてもらえれば、後はこちらで致す事が出来よう」
「と、申しますると……?」
「餌もある、勇猛な家来たちも居る。後は夜になってこの餌に喰らいついた所を仕留めれば良い。僧侶である一休殿にはお見せできぬ殺生の場面じゃ。なれば、ここまでで引き取られい」
言い終わると殿様はにまりと笑んで、意味ありげな視線を送ってみせた。
「ほおう……」一休は殿様の視線の意味に気がついたらしくしきりにうなずき返す。「なれば後はお殿様にお任せし、この一休、退散を致しましょう」
一休はすいっと立ち上がると、これも意味ありげな視線を殿様に送り、部屋を出た。
出払った部屋に殿様と緊縛に泣きむせぶなえとが残った。殿様は立ち上がると、辱かしくも惨めな格好で床に転がるなえに近寄り、見下ろした。なえは助けを請うような視線で殿様を見上げた。殿様はしゃがみ込む。
「なんとも辱かしい格好じゃな……」殿様は指先で蕾を摘み、力を入れる。んんんっ…… なえの顔が苦痛に歪む。「動けぬ女をいたぶるのはなかなか良いのぅ……」
おんなに喰い込んだ手拭いの片割れを掴むと引き絞った。うううううんん! なえは頭を激しく振る。
「良いのう、良いのう……」殿様の口端から涎が滴る。「一休め、楽しい事を教えてくれたわい……」
「殿……」家来の一人が部屋の外から声をかけた。「一休殿がお帰りになりました」
「おお、左様か」言いながらも引き絞り続けた。「何か言い置いていかなんだか?」
「くれぐれも夜までは殿も我ら家来も部屋には一歩たりとも近づかぬ様に入らぬ様にとの事でござりまするが……」
「そうか……」口惜しそうになえを見据える。「あい分かった!」
殿様は大きな声で答え、なえに小声で囁く。
「夜まで待たねばならんのう…… それまで気の毒じゃがここに置いておくぞ」
殿様は部屋を出た。畏まっている家来に言いつける。
「良いか、一休殿の言いつけを守り、何人もこの部屋に入れるでないぞ!」
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