速水さんは怪異と踊る

理不尽で危険な隣人との戯れ

眼前に迫る拳を避けようともせず、真っ直ぐに化け猿の顔を見つめる。

砕けた様な音が辺りに響く。

それは殴られ京香の額からではなく、殴りつけた化け猿の拳から発せられた音であった。

拳を抱きかかえうずくまる化け猿を見下ろしながら京香はため息を吐く。

「話せずとも言葉は分かるだろう？　化け猿は獣の妖かしの中でも知能が高いんだからね。答えなよ、君に選択肢は与えられて居ないんだから」

冷たい視線を化け猿に向けながら、京香は化け猿に近づく。

化け猿は焦りの表情を浮かべていたが近くに倒れていた茉莉に再び手を伸ばす。

「させないって言ってるんだけど……」

京香が言いかけた時だった。茉莉の制服の胸ポケットから一枚の紙が落ち、それに触れた猿がのたうち回るのを見て京香は言葉を噤んだのである。