31 王族の責任

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「あれはお伽話のようなものだからなあ。たまたま、何かの音が重なって聞こえたのではないかと言われているから、信憑性のない話なんだよ」 「そうなんですか?」 「うん。ごめんね。ローラが楽しみにしているなんて思わなくて、文献に書いてあった逸話で、花が咲く音なんて普通はあり得ないことだとしても、夢のある話だと思ったんだ」 「そうですよね。常識で考えれば音が聞こえるなんて、信じる方がおかしいですものね」  自分の思慮のなさに気づいて落ち込んでしまいました。 「そんなことはないよ。何事も絶対はないし、この世には人知で計れない不思議なことだっていっぱいあると思うよ。自分が言うのもなんだけど。今日は聞こえなかった、でいいんじゃないかな? お伽話だったとしても、ロマンは残しておきたいなあ」  レイ様が慰めてくださいます。  今日は聞こえなかった。  きっとそうなのでしょう。レイ様の優しい心遣いに勝手に落ち込んでいた私の心が浮上して、元気が出てきました。 「さあ、宮に戻ろうか。一緒に朝食を取ろう」  朝日が昇り辺りすっかり明るくなっています。今日もよく晴れた一日になりそうで、心がうきうきとしてきました。  レイ様はショールを外すと護衛騎士に預けます。  差し出された手を取り立ち上がると、陽光に照らされて神々しく咲き誇る蓮の花を背に西の宮へと帰りました。
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