31 王族の責任

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「レイ様」  もう一度呼ぶと、やっと気づいてくれたようです。 「ああ、ごめん。しょうがない、リッキーのわがままにつきあってくれる?」  何を言っても引かないであろうリッキー様に、渋々ながらも折れたようです。子供のおねだりには勝てませんものね。 「私も本は大好きですから、お気になさらなくても大丈夫ですよ」  笑顔で答えると、レイ様は少しだけ複雑そうな顔をした後、頷いてくださいました。  二冊目はどうやら図鑑のようです。海の生き物がたくさん描かれていて、それぞれ説明書きがあります。  自領は海に面していないので、行ったことはありません。どんな生物が住んでいるのでしょう。初めて見る図鑑を二人で楽しみます。  珍しい生き物に興味を惹かれつつ夢中になっているときでした。 「レイニー殿下。よろしいでしょうか?」  セバスの声がしました。彼は執務室にいたはずですが、ここに来るということは急用なのでしょうか。    「なんだ」  少し不機嫌な声を出したレイ様でしたが、人前では話せないことなのでしょう。立ち上がると見えないところへとセバスとともに行ってしまいました。  気になりながらも、リッキー様と図鑑を眺めていました。しばらくして、やってきたレイ様は渋い顔をしています。 「ちょっと仕事が入って、三十分後に人と会うことになったから、しばらく席を外すけど、すぐに終わると思うから、帰って来るまで待っててほしい」  そう言い残してレイ様は図書室を出て行きました。  ポツンと一人取り残されていたように、レイ様がいなくなった部屋はなぜだか広く感じてしまいます。  本当は仕事が立て込んでいたのではないかしら。私の相手をするために、無理に時間を空けてくださっていたのかもしれません。  このまま待つのも申し訳なくて、これからどうしようかと悩みました。
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