32 ディアナside④

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「そういうわけだから、どんどん着てちょうだい。お願いね」  テーブルに置かれた手をぎゅっと握ると、思案するように瞳を伏せていたフローラはやっと納得してくれたのか、黙ったまま頷いてくれた。  西の宮に突然現れた侯爵令嬢。  レイニーのお気に入りとなれば、侍女たちも色めき立つというもの。  彼女たちも初対面でメロメロになったみたいでフローラの着せ替えを喜んでやっているようだし、浮かれすぎでは? と思うくらいには宮が華やいでいるものね。  よいことだわ。 「それにしても、今日は早かったわね」  ティーカップをソーサーに戻すとシャロン様が話題を変えてくれた。  これまた優雅な仕草だわ。これもレクチャーしてもらおうかしら。わたしも見習わなくていけないわね。 「ええ。レイ様に急なお仕事が入ってしまって、邪魔するといけないので帰ってきたの」  フローラの表情には心なしか哀愁が漂っているよう。  リチャードの勉強が終わった次の日は丸一日レイニーと一緒ですものね。まだ日が高いうちに帰ってきたから、ぽっかりと穴が開いたような寂しさもあるのかもしれないわ。 「それなら、仕事が終わるまで待っておけばよかったのに。そう何時間も待たせるようなことはなかったと思うわよ」  この日のために仕事を前倒しでやっていると聞いているから、緊急性の仕事が入ることはないと思うのだけど。よほどのことだったのかしら。
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