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「そういうわけだから、どんどん着てちょうだい。お願いね」
テーブルに置かれた手をぎゅっと握ると、思案するように瞳を伏せていたフローラはやっと納得してくれたのか、黙ったまま頷いてくれた。
西の宮に突然現れた侯爵令嬢。
レイニーのお気に入りとなれば、侍女たちも色めき立つというもの。
彼女たちも初対面でメロメロになったみたいでフローラの着せ替えを喜んでやっているようだし、浮かれすぎでは? と思うくらいには宮が華やいでいるものね。
よいことだわ。
「それにしても、今日は早かったわね」
ティーカップをソーサーに戻すとシャロン様が話題を変えてくれた。
これまた優雅な仕草だわ。これもレクチャーしてもらおうかしら。わたしも見習わなくていけないわね。
「ええ。レイ様に急なお仕事が入ってしまって、邪魔するといけないので帰ってきたの」
フローラの表情には心なしか哀愁が漂っているよう。
リチャードの勉強が終わった次の日は丸一日レイニーと一緒ですものね。まだ日が高いうちに帰ってきたから、ぽっかりと穴が開いたような寂しさもあるのかもしれないわ。
「それなら、仕事が終わるまで待っておけばよかったのに。そう何時間も待たせるようなことはなかったと思うわよ」
この日のために仕事を前倒しでやっていると聞いているから、緊急性の仕事が入ることはないと思うのだけど。よほどのことだったのかしら。
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