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応接室に足を運ぶとすでにディアナがソファに座っていた。
早いな。
返事を聞く前にすでに通されていたのだろう。誰もディアナには逆らえない。祖父母はもちろん、両親である国王夫妻のお気に入りなのは周知の事実。ヒエラルキーは俺たち王子より上だものな。
「あら、遅かったわね」
「すまない。仕事があったもので」
理由をでっち上げ、そっちが早すぎるだろうと口にはできないから心の中で呟くに留めて椅子に座った。
「忙しかったのね。ごめんなさい、そんな時にお邪魔しちゃって」
謝るわりには悪びれた様子もなく、澄ました顔で扇子で首元をあおいでいる。気を使って遠慮するっていう気持ちは毛頭ないんだろうな。
「いいよ。で、用事は何?」
「あら、あら、あら。そんなにとがらなくてもいいのではないの? 機嫌が悪そうだけれど、何かあったのかしら?」
「何もない」
「そう? だったらよいけれど」
深く追求するつもりはないのか、軽く流したディアナは運ばれてきたカップを手に取り、紅茶の香りを楽しむと口をつけた。
一連の所作は見惚れるくらいなのだが、途切れた会話が何か含みを持たせているようで妙な緊張感を生む。
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