34 波乱の予兆

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 傷物令嬢って、自分でもわかっていることだもの。高望みと言われても誰とも結婚なんて望んでいないのだもの。一言、大丈夫だと言えばいいのよ。  感情を押し殺すために強く握りしめた手に力を込めて、噛みしめていた唇を気丈に動かして   「ビビアン様、私も弁えておりますわ。傷物だとは十分承知しております。結婚など私には分不相応ですもの。考えておりませんわ」  一気に話し終えると、笑みが浮かびました。  知らなかったわ。悲しいときにも笑えるのね。 「ふふっ。潔いこと。さすが侯爵令嬢ですわ。そんなに悲観されずとも相応しい方は現れますわよ。立場さえ弁えれば。あら、随分と時間が経ったみたいね。わたくし、失礼させていただきますわ」  席を立つとビビアン様は軽くカーテシーをして 「今日はとても楽しかったわ。また一緒にお茶を致しましょう? お代は心配なさらなくてもよろしいから、二人はゆっくりしてらっしゃってね」  一方的に告げると店を出て行きました。  傷物令嬢。  心の中に刻まれた瑕疵。 「どなたもこなたもわたしが誰だか忘れているようね。わたしの親友と念を押したのに、おバカな人ね」  ディアナは震えている私の肩を抱きながらポツリと零しました。       
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