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「ローラ? どうしたの? 具合でも悪い?」
心配げに尋ねるレイ様にふるふると頭を左右に動かしました。これが精いっぱい。便乗して具合が悪いことにしておけばよかったのかも、なんて頭の片隅で考えていたら、くいとあごを持ち上げられてレイ様の顔が目の前に。
その瞬間、きゃあと声にならない声を上げてさらに体温が急上昇して、思考が停止してしまいました。
菫色の瞳の中に私が映っている。レイ様の中に私がいる。ぼんやりとそれを感じて……
ドキドキと激しくなる鼓動。呼吸も荒くなってきたみたい。
はあ、ダメ。これ以上は耐えられない。
「ローラ。俺は……」
もう限界だわ。私はガバッと立ち上がりました。
「どうしたの? 急に」
突然の意味不明な行動に呆気にとられるレイ様。
私の胸中など知る由もない困惑した表情。初めて自覚した気持ちを消化できない私。
話の最中に席を立つのは不敬だわ。咎められるかもしれない。何よりもレイ様に失礼なこと。ほんの少し残っている理性が囁きかけますが、それもすぐに消えていきました。
これ以上は、私の気持ちが持たないわ。
「ローラ?」
「申し訳ありません。時間がないので、これにて失礼させていただきます」
やっと声を絞り出し、深々と頭を下げて踵を返すと脱兎のごとく駆け出しました。
「ローラー」
背中にレイ様の悲痛な叫び声が聞こえたような気がしましたが、それどころではありません。
レイ様のことが好き。
自覚した気持ちを持て余し、彼の元から逃げ出す事しか考えられませんでした。
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