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「ああ、ありがとう」
エドガー様は満面の笑みで微笑みました。初めて私に向けたエドガー様の笑顔。笑えたのですね。私の前では眉間のしわを寄せ仏頂面しか見たことはありませんでした。
私がほっとしていると周りから、おおっとどよめきが起こりました。ざわめきも聞こえます。拍手こそ起きませんでしたが、雰囲気はよさそうです。険悪なムードは感じません。ダンスパーティーが中断されたというのに、皆さん心が広い方たちばかりなのね。
「リリア。よかったな。君と結婚できるよ」
「はい。エドガー様、嬉しいです」
二人はお互い微笑みあうと抱きしめ合いました。
これが本当の恋人同士なのでしょう。完全に二人の世界です。素っ気ない態度であいさつを交わすだけだった私とエドガー様の仲とは全然違います。
「それじゃ、踊ろうか」
エドガー様がリリア様に手を差し伸べると、リリア様ははにかんだように顔を赤らめながら手を重ねました。
まぶしさに目を細めながらなんとか二人の様子をうかがい知ることができました。きっと、二人は幸せになられることでしょう。
やはり、婚約解消してよかった。
これ以上いてもお邪魔でしょうし、それでは退場いたしましょう。
「エドガー・テンネル、リリア・チェント。待ちなさい」
踵を返そうとしたところで、学園長の声がしました。
そういえば、ダンスパーティーは学園主催。先生方も当然出席していらっしゃいます。
壇上を降りようとしていたエドガー様とリリア様が警備隊に捕まっていました。
「二人とも別室で話を聞かせてもらおう」
「なんでですか? これからダンスを……」
「何度も言わせるな」
有無を言わせない学園長の声にびくりと肩を震わせたお二人ですが、結局抵抗することなくおとなしく連れていかれました。
扉が閉まりシンと静まり返ったホールに再び音楽が流れ始めました。
「さあ、時間はまだあるから、これから大いに楽しもう」
生徒会長の声が高らかに響きます。
みんなはその声に促されるように中央に進み踊り始めました。
退場の機会を失った私でしたが、このどさくさに紛れて帰りましょう。
エドガー様とリリア様は大丈夫かしら?
馬車の中で学園長の怒った顔を思い出し二人のことが心配になりました。
お父様に報告しなくては……
一つだけ気がかりなことがあります。
結婚がなくなればあの条件も白紙になるということ。
どうしましょう。
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