40 ビビアンside③

8/10
前へ
/774ページ
次へ
 お父様も意気投合して話がだんだん興に乗っていってるわ。  あけすけな物言いで本人の目の前で隠しもしないのは、お酒が入って気が大きくなっているせいかもしれない。  レイニー殿下のお相手はわたくししかいないと自負していたわ。それは今でも変わっていない。  けれども 『本当はファーストダンスだって、ローラと踊りたかったんだ。二曲目だって、三曲目だって、本当はずっとローラと踊りたかった』  盗み聞きだったけれど、こんなことを言われたわたくしはどうすればいいの?  わたくしは眼中になかったって言われているようなもの。  殿下とファーストダンスを踊って舞い上がっていた気持ちも、もう一度、ダンスに誘ってくださると心待ちにしていたことも、わたくしを選んでくださると確信していた思いも……  最初から好意のひとかけらさえもなかったのだと思い知らされた、あの瞬間。 『私もレイ様ともっと踊りたかった。でも……』  わたくしだって踊りたかったわ。ずっと待っていたのですもの。わたくしに権利があるはずよ。  そして、あろうことか、二人は星空の下で踊りだしたのよ。レイニー殿下の口から紡ぎだされる曲に合わせて踊るフローラ。  なに、その楽しそうな顔。なに、その幸せそうな顔。  幸福な時間を過ごすのはフローラではなく、わたくしのはず。  おかしい。何かが間違っている。 「あら? ビビアン? その手に持っているのは扇子かしら? 随分と短くなっているけれど、どうしたの?」  
/774ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3362人が本棚に入れています
本棚に追加