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お父様も意気投合して話がだんだん興に乗っていってるわ。
あけすけな物言いで本人の目の前で隠しもしないのは、お酒が入って気が大きくなっているせいかもしれない。
レイニー殿下のお相手はわたくししかいないと自負していたわ。それは今でも変わっていない。
けれども
『本当はファーストダンスだって、ローラと踊りたかったんだ。二曲目だって、三曲目だって、本当はずっとローラと踊りたかった』
盗み聞きだったけれど、こんなことを言われたわたくしはどうすればいいの?
わたくしは眼中になかったって言われているようなもの。
殿下とファーストダンスを踊って舞い上がっていた気持ちも、もう一度、ダンスに誘ってくださると心待ちにしていたことも、わたくしを選んでくださると確信していた思いも……
最初から好意のひとかけらさえもなかったのだと思い知らされた、あの瞬間。
『私もレイ様ともっと踊りたかった。でも……』
わたくしだって踊りたかったわ。ずっと待っていたのですもの。わたくしに権利があるはずよ。
そして、あろうことか、二人は星空の下で踊りだしたのよ。レイニー殿下の口から紡ぎだされる曲に合わせて踊るフローラ。
なに、その楽しそうな顔。なに、その幸せそうな顔。
幸福な時間を過ごすのはフローラではなく、わたくしのはず。
おかしい。何かが間違っている。
「あら? ビビアン? その手に持っているのは扇子かしら? 随分と短くなっているけれど、どうしたの?」
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