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「申し訳ございません。挨拶が遅れまして」
「いいのよ。放課後の停車場でこの雑踏の中ですもの。聞こえないこともありますわ。ところで、お時間を下さらないかしら」
寛容な態度で理解を示すビビアン様ですが、最後の言葉にサーと血の気が引きました。
「そんなに手間は取らせませんわ。少しの間だけ、よろしいでしょ」
断れるわけはありません。青褪めた顔を無様に晒した私はなんてみっともないのでしょう。頼りになるはずのディアナがいないまま、私はビビアン様の後をついて行きました。
連れてこられたのは人影のない校舎裏。ざわざわと木々の葉がこすれた音が聞こえ、太陽が雲に隠れたり出たりして空の様相が変化していきます。
今から、何が始まるのでしょう。
「祝賀会。とても楽しかったですわね」
とびきりの笑顔で微笑むビビアン様にあの日の憎しみに燃えた表情が重なります。
「は、い」
掠れた声でやっと返事をしました。
「フローラ様も楽しかったのね。それはよかったですわ」
にこやかに微笑むビビアン様はとても美しくて、間違いようのない整った美貌の持ち主です。けれど、その美しさが逆に人間らしさのない無機質なものに見えてしまいます。
「ところで、あのあとどうなさいましたの?」
「あ、あのあと……とは?」
恐ろしさで心臓がバクバクと音を立てています。あのあとと聞かれても、恐怖に支配された頭では考えることが出来ません。
「とぼけて……わたくしが帰った後ですわよ。そのくらい察しなさいな。鈍い人ね」
「……ホールに戻りました」
「本当に。ウソではありませんわよね?」
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