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44 チェント男爵令息side②
「旦那様がお見えになっていますよ」
サントの出迎えと同時に知らされた父の訪問。
俺は着替えをすませるとダイニングルームへと足を運んだ。
「父上、久しぶりですね」
ノックをして部屋に入ると壁に飾ってあった絵画を眺めていた父に声をかける。
「ああ。今日はお邪魔してるよ」
自分の邸でもあるのに、他人行儀な言い方に苦笑いしてしまう。父にとってはここはまだ自分にそぐわない邸なのだろう。
「これを見ていたのですね」
父の隣に来ると俺も一緒に絵画を眺める。
川岸に沿うように植えられた樹木には薄ピンクの花が咲き誇っている。花の名前は桜というらしい。この国では見かけない珍しい花だ。遠い先祖の故郷の景色を描いたもの。形見として大事にしている。
故郷の国はジュラン皇国という。
その昔、まだ我が国と国交があった頃にうちの先祖と恋に落ちた皇国の貴族令嬢。輿入れした令嬢は一度も故郷に帰ることなく、一生をこの地で過ごした。俺達にはジュラン皇国の貴族の血が入っている。かなり昔の出来事だから微量ではあるかもしれないが。そのせいか、ジュラン皇国にずっと憧れを持っていた。
「わかったのか?」
「そうですね。まずはフィンディス国の永住権が必要ですね。次に必要な書類と渡航許可書の申請を出して審査が行われる。審査の内容は極秘だそうで何が基準なのか一切わからないそうです」
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