45 すれ違う心

8/21
前へ
/774ページ
次へ
 準備が整ってレイ様の部屋の前へと案内されました。  お会いするのは祝賀会以来。  バクバクと大きな心臓の音がうるさいくらいに耳に響いてきます。部屋に入るだけで緊張するのは、レイ様に会うのが怖いから。こうやって部屋に招いてくださるのも今日限りかもしれません。  レイ様はこの国の王子です。  独り占めしているとは思いませんが、良くして頂いていることを当たり前だと思ってはいけない。  レイ様は誰でも選べる立場。  好きだからといって報われるとは限らない。報われることを望んではいけない。  何日もベッドの中で考えました。何度考えても同じところをぐるぐると回るだけで、希望を見出すことはできませんでした。  だって、レイ様が私のことを好きだとは思えなかったから。好きになってもらえる要素などどこにもないもの。  いよいよ扉が開きました。これが最後かもしれない。深呼吸をして、私は部屋の中に入っていきました。  挨拶をと身構えていた私の視界が陰ったと思ったら、シトラスの香りがふわっと鼻を掠めて、温かい体温に包まれました。 「あ、あの……レイ様?」  まだ二、三歩です。扉が閉まるのも待たずに駆け寄ってきた来たレイ様に抱きしめられていました。ただならぬ様子に困惑している私。  
/774ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3361人が本棚に入れています
本棚に追加