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「挨拶を……」
「……いらない。もうしばらく、このままで」
くぐもった声が聞こえてきて、抱きしめていた腕に少しだけ力が込められたように感じました。言われる通り、もうしばらく、このままで。
レイ様の腕の中。
心地よさに慣れてしまった自分がいて、会えなくなったらどんな気持ちになるのかしら。当たり前だったものが当たり前でなくなる。
悲しいのか、寂しいのか、どんな思いでレイ様の元を離れたらいいのか。
その時が来たら、笑顔で……せめて、笑顔で。
「ローラ。今日はゆっくりできるよね?」
抱きしめたまま、レイ様の声が降ってきました。
ゆっくり……
「はい」
「この前みたいに、急に帰るのはナシだよ」
「はい」
また、念を押されました。よほどショックだったのかしら。本当に申し訳なかったわ。
「仕事も絶対に入れないから」
「は……。いえ、仕事はしてくださっても」
仕事は大事ですから、緊急なものであれば仕方がありません。
「いやだ。今日の分は終わらせてるから、絶対に受け付けない」
駄々をこねる子供のようで、可愛らしいレイ様。
「わかりました。今日はゆっくりとお付き合いいたします。レイ様、よろしくお願いします」
最後かもしれないですものね。レイ様と一緒にいたいのは私のほう。ゆっくりと、時を刻むようにレイ様との時間を慈しむように大切にするわ。
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