45 すれ違う心

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「挨拶を……」 「……いらない。もうしばらく、このままで」  くぐもった声が聞こえてきて、抱きしめていた腕に少しだけ力が込められたように感じました。言われる通り、もうしばらく、このままで。  レイ様の腕の中。  心地よさに慣れてしまった自分がいて、会えなくなったらどんな気持ちになるのかしら。当たり前だったものが当たり前でなくなる。  悲しいのか、寂しいのか、どんな思いでレイ様の元を離れたらいいのか。  その時が来たら、笑顔で……せめて、笑顔で。 「ローラ。今日はゆっくりできるよね?」  抱きしめたまま、レイ様の声が降ってきました。  ゆっくり…… 「はい」 「この前みたいに、急に帰るのはナシだよ」 「はい」  また、念を押されました。よほどショックだったのかしら。本当に申し訳なかったわ。 「仕事も絶対に入れないから」 「は……。いえ、仕事はしてくださっても」  仕事は大事ですから、緊急なものであれば仕方がありません。 「いやだ。今日の分は終わらせてるから、絶対に受け付けない」  駄々をこねる子供のようで、可愛らしいレイ様。 「わかりました。今日はゆっくりとお付き合いいたします。レイ様、よろしくお願いします」  最後かもしれないですものね。レイ様と一緒にいたいのは私のほう。ゆっくりと、時を刻むようにレイ様との時間を慈しむように大切にするわ。
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