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「うん。約束だからね」
「はい」
私の返事にホッと安心してくださったのか、やっと、腕の中から解放されました。
人肌の体温がなくなった体にちょっとだけ淋しさを感じてしまいましたが、それもまた贅沢な事だったのだと思い直しました。
♢♢♢♢♢♢♢♢
「体はもう大丈夫?」
レイ様の腕に手を添えて庭園をゆっくりと散策していると気遣ってくださいます。
「はい、すっかりよくなりました。ご心配かけて申し訳ありません。それから、お見舞いの品をありがとうございました」
「たいしたものでなくてごめんね。何がいいかわからなくて……先日のハンカチを思い出して、お礼も兼ねてそれにしたんだ」
「百合の刺繍がまるでお手紙をいただいた時のようで、とても元気づけられました。ありがとうございました」
サリーが『ハンカチの色がお嬢様の瞳の色と同じですね』って言っていたわ。たまたまだったのかもしれないから、都合のいい夢は見たらいけない。
そう思いつつも深読みすれば、私の瞳に映る百合を模したものなのかしら? なんて想像してみたりして……ありえないことなのに、勝手に自己満足な夢を見ていました。それが精神的な支えでした。
百合は私にとってとても大事な花になりました。
プレゼントされたハンカチは今も箱の中。
とてもじゃないけど使えないわ。その代わりに部屋の棚に大切に飾って毎日眺めています。
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