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自分から身を引くのも大事な事。
ふと浮かび上がった言葉に心が凍ります。
「ローラがいいんだ。ローラが作ったお菓子が食べたい」
レイ様は優しい方だから、そういってくださるのね。
「ありがとうございます。いつか機会があれば……」
ちょっと言葉を濁してみたら、伝わるかしら。
「うん。楽しみにしてる。まずは体の回復優先でいいからね」
私はこくんと頷きました。
伝わらなかったみたい。でも、私の体調を慮って下さるレイ様。優しすぎるわ。
このまま、体調不良のせいにして、うやむやにしてしまうのもいいのかもしれない。なんて狡いことを考えてしまう。レイ様だって会わなくなれば私のことなどすぐに忘れてしまうでしょう。
「おいで」
いつの間にか隣に座っていたレイ様が手を広げていました。
「おいで」
広げられた胸の中に吸い込まれそうになりましたが、思いとどまりました。今までだったら何も考えず飛び込んでいたかもしれません。
なぜそんなことが出来たのか、自分の行動の無謀さに羞恥心がこみ上げてきました。
「いつもなら、来てくれるのにどうしたの?」
様子がおかしいと頭を捻るレイ様と自覚した思いに戸惑う私。
業を煮やしたのかレイ様は自分から近づくと私を抱きしめました。
シトラスの香りに包まれて腕の中に閉じ込められて、そんな行為に喜ぶ私がいる。振りほどけない私がいる。
「こうしていないと逃げられそうだから。話があると言っていたよね。覚えてる?」
あの時は手をしっかりと握られていたわ。逃げないようにって。
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