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レイ様の真摯な眼差し。快活に笑う表情。私を呼ぶ声。抱きしめられた時の温もり。私に与えられたすべてのものが愛おしい。
「申し訳ありません。お受けできません」
自分の思いを断ち切るようにきっぱりと答えました。
レイ様の瞳が驚愕に見開かれて失望に染まっていく。悲哀に満ちた顔に心が痛みます。
レイ様にはもっと相応しい方がいるわ。私でなくてもいい、私なんかよりもっと相応しい方がいる。
気の迷いよ。
レイ様は勘違いしていらっしゃるのよ、きっと。
だから、すぐに目が覚めるわ。
私のようなつまらない娘よりもお似合いのご令嬢がすぐに見つかるわ。たとえば、ビビアン様のような。
「なぜ? ローラは俺の事をどう思っている? 正直に答えて」
掴まれた肩に力がこもります。今、目を逸らしてはいけない。
「お優しい方だと思っております」
「それだけ?」
私はこれ以上は言葉を紡げず、こくりと頷きました。
心は泣いているのに、こんなに冷静に返事ができるのはどうしてなのでしょう。
血の気を失った冷たい指先を握りしめて気丈にふるまわなければ。泣いてはいけない。
「そろそろ、離して頂いてもよろしいでしょうか」
自分でも驚くぐらいの冷淡な声音。
青褪めた悲愴な表情のレイ様を見るのはつらい。
何が正解なのかはわからない、本当にこれでよかったのかなんてわからない。けれど、一度口にした言葉は取り消せない。
肩を掴んでいた手から力が抜けて、あっさりとレイ様から解放されました。
なくなった温もりに寂しさを覚える自分がおかしくて、私から手を離したのに。
「今まで優しくしてくださり、ありがとうございました」
悲しみを湛えた瞳で呆然と私を見上げるレイ様に、これ以上はないくらいのカーテシーをしてその場を去りました。
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