3360人が本棚に入れています
本棚に追加
「何を言ってるの。元々わたくしのお店よ。もちろんフローラがいれば心強かったとは思うわ。でも一人に頼ってばかりでは事業は上手くいかないものね。それに優秀なスタッフも揃っていたから、滞りなくオープンできたのよ。だから心配することはないの。今だってうまくいっていて経営も順調なのだから、当日はお客として食事を楽しんでちょうだいね」
「そうですね。そうします」
商品開発には携わりましたが、オープンしてしまえば私にできることはありません。オープン当日の大盛況だったという様子をこの目で見たかったとは思いますが、こればかりはどうしようもないことですものね。
霞がかかったように曖昧に流れる時間。
お母様と話をしていても現実味がないように感じて、ぼんやりしてしまいます。笑っている自分は本当の自分なのか、よくわからないまま、日々を過ごしている。
時々、胸の奥で泣いている自分がいて、心を痛めながらも、感情をそのまま表に出すことはできなくて。迷子のように出口を探してさまよっているだけ。
一人になったテラスから見える庭には、季節の花々が咲き始めていました。木々の合間から見えるのは雲の多い空。切れ切れに青空が覗いています。
本来なら、今頃はレイ様と……
静かな空間に身を置いていると知らずに頭に浮かんできます。
レイ様の笑顔や笑い声。低めの穏やかな声色。抱きしめられた時の温もりも、シトラスの香りも。本当はからかわることもイヤではなかったわ。
ずっと、好きだった。
最初のコメントを投稿しよう!