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『結婚してほしい』
その言葉が今もリフレインしている。
あの日のレイ様の真剣な顔が思い浮かんできます。
好きだと言われて、嬉しかった。レイ様も同じ気持ちだったと聞いて嬉しかったの。
けれど……
自信が持てなかった。
レイ様は第三王子殿下。選べる立場。
私よりも相応しい方がいるわ。地味で冴えない私よりも相応しい令嬢は他にいるでしょう。
驚愕に開かれた目と絶望に青ざめた表情が頭から離れない。
傷物だと地味で冴えないなどとさんざん言われて、どこにも身の置き場がなくて、自信なんてなくて、どうしたらよかったのかわからない。
レイ様はこんな私のどこがよかったのかしら?
小さく溜息をつくとカップに手を伸ばして紅茶を飲みました。
どんなに考えたところで答えは見いだせない。ただ、レイ様を好きな気持ちは消えてはくれない。時がたてば少しは薄れるかもと思ったのに……思いは募るばかり……
物思いに耽っていると急にテーブルが陰って、薄曇りだった天気が太陽が隠れてにわかに暗くなってきました。
「お嬢様、天気が怪しくなってきましたね。お部屋に移動されていかがでしょうか」
サリーの案じるような声に頷き、自室に帰ってぼんやりと窓の外を見ていると雨が降ってきました。雨粒が葉を揺らして地面を濡らしていきます。
「この雨をレイ様も見ているのかしら?」
窓を滴り落ちる雨の雫を眺めながら、思い出すのはレイ様の事。
同じ空の下でレイ様は今、何をしていらっしゃるかしら。きっとお仕事で忙しくて私のことなど忘れていらっしゃるかもしれないわね。
しとしとと降り続く雨。空を分厚く覆う雨雲。この空模様はまるで私の心のよう。考えるほどに空虚感に苛まれるだけ。
くよくよしても始まらないわ。もっとしっかりしなくては。
気持ちを切り替えるように息を吐いて、机に向かって本を広げたのでした。
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