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両手で腕を取られてずんずんと進んでいくリッキー様の表情からは、うきうきと高揚した気持ちが見て取れます。
ここで引き返せば……そんな思いが何度もよぎります。
その都度、リッキー様を悲しませるのも申し訳ないからと思い直して、ためらいがちにドキドキした気持ちを抱えながら、長い廊下を歩いていきました。
近づくにつれて、胸の鼓動が早くなり足が止まりそうになります。リッキー様は早く行きたいのでしょう。次第に歩く速度があがっていきます。
「リッキー様。もう少し、ゆっくり歩きましょう」
はやる気持ちはわかるのですが、しまいには走り出してしまうのではと思うくらいに速足です。私の体力が持ちません。
エイブ達の苦労がちょっとわかったような気がしました。後ろを振り返るとエイブが苦笑いを浮かべていました。
「うん。そうする」
分かってくれたようです。
それからは普通の歩行速度になったので、ホッとしました。
もしかしたら、以前、レイ様に注意されたことを思い出したのかもしれません。
ちょっとした出来事も、レイ様とつながっていて思い出してしまう。
恋しい気持ちと忘れなければと思う気持ちが綯い交ぜになって、どうしたらいいのかわからなくて……切なくて、苦しくて。
小さな手に引かれて、導かれるように廊下を進んでいきました。
「どうぞ」
いきなり扉が開きました。
考え事をしているうちに、西の宮に着いたようです。
開け放たれた扉から
「レイお兄ちゃーん」
嬉しそうに駆け出していくリッキー様。
微笑ましい姿を目で追うとその先には――レイ様がいました。
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