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もしかして、怒っていらっしゃるかもしれないとあの日の無礼な出来事が頭をよぎって、視線が上げられず下を向いていると
「うん。綺麗だね。ローラ、顔を上げて」
レイ様の優しい声に恐る恐る顔を上げるとレイ様が微笑んでいました。
「レイ様、いえ、レイニー殿下。先日の非礼をお詫び」
「ローラ」
最後まで言い終わらないうちにレイ様が名前を呼びました。ハッとしてレイ様を見ると悲し気な表情を浮かべています。
「今まで通りでいいのに。なぜ、呼び方を変えるの?」
「ご迷惑ではないかと思って……」
私なりにけじめをつけたつもりだったのです。
馴れ馴れしくしては、いつまでも勘違いをしてしまうかもしれません。それにお相手の方にも失礼になると思い、改めたのですが……
「俺はそんなこと言ってないし、思ってもいないよ。今まで通りでいいから。それとも、これから俺にフローラ嬢と呼んで欲しいの?」
それは、考えていませんでした。
「あ、あの……」
なんと答えていいのかわからなくて口ごもってしまいました。
フローラ嬢。
これからのことを思えばその方がいいのでしょう。
けれど、急に遠くなった距離感にショックを受けている自分がいました。これに慣れなければいけないのかと思うとズキッと胸が痛みます。
ドレスを握りしめてどう答えればいいのか迷っていた私に、スッと影が差しました。
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