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「俺? 俺は違うって言いたいところだけど、一番甘やかしているかもしれないな。甥っ子って無条件にかわいいから、ついつい甘くなるんだ」
なんとも甘やかな表情で紅茶を口にしたレイ様。
思わず見惚れてしまいました。私を見る目が温かくて少しだけ妖艶な色も孕んでいて、いけないと思うのに目が離せなくて……
「ローラおねえちゃんは食べないの?」
甘美な雰囲気に酔っているところへリッキー様の声に空気が霧散してしまいました。目の前にはケーキと紅茶がセッティング済み。
レイ様に見惚れている場合ではなかったわ。恥ずかしい。
「いただきます」
小さめにカットされているから、これだったらお腹に入りそう。食べている間は会話をすることもないでしょうから、ちょうどよいかもしれないわ。
「ローラもおかわりしていいからね」
「……いえ、一個で十分です」
からかい気味な声でレイ様が笑っています。
レイ様の元には紅茶のカップだけ。テーブルに肩肘をついてリッキー様を見て、そして、私を。
会話のない方が、食事に夢中になっている方が、気が楽だと思っていましたが、時間稼ぎになると思っていた自分の考えが浅はかだったと身に沁みました。
熱を持った瞳が私を見つめている。感じる視線に気づかないふりをして、紅茶に手をつけました。
沈黙の時間がこんなに神経を使うものだったとは思わなかったわ。
それに自分から沈黙を破る勇気もなくて、レイ様が送る熱い視線に耐えながら、時々、美味しそうにケーキを頬張るリッキー様の様子を眺めて、やり過ごしていました。
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